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第26回受賞作及び受賞者名

特別賞

 『農村から都市へ―1億3000万人の農民大移動』(岩波書店 2009年)

厳 善平(げん・ぜんへい) (桃山学院大学経済学部教授)

<中国社会経済の行方に大きな影響を及ぼす農民工問題>

 この度は、名誉ある大平正芳記念賞特別賞を賜り、衷心より感謝申し上げます。また、1999年学術研究助成費受賞に続く二度目の受賞に、大変感激しております。長い間に、同じテーマに打ち込み、地味な調査研究を評価して下さったことは、研究者として嬉しい限りです。ここに、受賞作に関する研究について簡単に紹介させて頂きます。
   中国に独特の戸籍制度があります。全国民は農業か非農業の戸籍を生れつきのものとして与えられ、農業から非農業への戸籍転換が厳しく制限されます。過去30年間、農業戸籍人口は全体の84%から67%に下がったものの、農業戸籍を有する農民とされる者は、依然8億8000万人に上ります。他方、居住地をベースとした人口統計では、農村部の総人口が7億2000万人しかありません。農民でありながら、都市部で暮らす、いわゆる農民工とその家族は1億6000万人もいるということです(2008年)。
   豊富で安価な労働力が農村から都市へ供給され続けたことで、中国経済の高度成長が可能となり、世界の工場としての中国が成りたったといわれます。しかし、戸籍の転出入に伴わない人口移動がほとんどであるため、さまざまな問題も存在します。たとえば、教育水準の比較的高い青壮年が農村から流出し、子供、女性、高齢者が田舎に取り残され、農村の荒廃が進んでいます。居住地の戸籍を持たない農民工およびその子女は、求職、就業、賃金、社会保障、教育等で制度差別を受け、大都市の中に戸籍住民と農民工による二重構造が形成されています。
   胡錦濤・温家宝政権発足後、農民工に関わる諸制度の改革が行われ、農民、そして農民工の国民としての基本権利が大きく改善されています。背景に農村からの労働供給が無制限でなくなったこともあろうが、調和的社会の実現を基本理念に掲げる現政権としては、それが自然の成り行きです。
   受賞作はこのようなダイナミズムを描いてみたものですが、今後はこの受賞を励みに、中国社会経済の行方に大きな影響を及ぼす農民工問題について、一層の理論的、実証的研究を続けたいと考えています。

略歴
1963年中国安徽省生まれ。1984年南京農業大学農業経済学系卒。1985年中国政府の国費留学生として来日、京都大学大学院に入学。1991年京都大学大学院博士課程修了、農学博士。桃山学院大学専任講師、助教授を経て、2000年より桃山学院大学経済学部教授。2004年より東洋文庫客員研究員、2008年より早稲田大学客員研究員を兼任している。地域農林経済学会賞(1994年)、日本農業経済学会奨励賞(1998年)、日本農学進歩賞(2002年)などを受賞。

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