9つの研究グループ報告書要約文

対外経済対策研究グループ

一、基本姿勢
二、国際通貨制度
三、国際貿易と産業調整
四、経済安全保障
五、国際資本移動と直接投資
六、南北問題と経済援助
七、先進諸国と日本との関係
八、経済政策運営における国際協調

一 基本姿勢
戦後三十年間の経済復興・高度成長を通じて、日本は世界GNPの約一〇パーセントを占める経済大国へと躍進した。日本やEC諸国の成長により、アメリカ経済の比重は相対的に低下し、ドルの圧倒的威信を背景とした戦後経済体制は、一九七〇年代以降、歴史的転換を迫られるようになった。こうした現局面に対応し、日本が一九八○年代以降九〇年代を目指してとるべき対外経済政策の基本姿勢は、次のとおりと考える。
(1) いまや経済大国である日本は、かつての小国時代のように既存の国際秩序を所与として、その利用に終始することは許されない。欧米諸国と連帯し、自由と互恵の原則を中心にした国際経済体制の発展に積極的に貢献し、そのために必要なコストを分担しなければならない。
(2) 賢明に制御された自由主義的国際経済体制の利益は、先進国の節度と協調に基づく安定的ルール運営によってのみ実現される。日本は、ガット等の国際ルールを率先して実行し、他国に範を示すべきである。
(3) 多様化する第三世界や社会主義圏を含めた新しい安定的な国際秩序を創造するためには、自由市場原理の弾力的な運営が要求される。このために、日本は、積極的にイニシアティブをとり、特恵供与、資金援助、技術協力、人物交流のコストを惜しむべきではない。
(4) 国際経済秩序の発展に貢献するためには、国内では市場開放と産業調整を推進しなければならない。その過程で、新しい公共政策手段(ニュー・レギュレーション)を導入するとともに、古い惰性的規則は撤廃(デ・レギュレーション)しなければならない。
(5) 対外経済関係の改善は、単に経済面での協力によって達せられるものではない。平和外交をもとにして、文化・科学・技術など広範な国際交流を行うことが不可欠である。

二 国際通貨制度
(1) 当分の問現行の管理フロート制を支持し、フロートの国際収支調整機能を高めるための補完措置に積極的に協力する。
(2) また、為替政策やマクロ政策に対するIMFの監視・協調機能の強化を支持し、狭い国益を追求する対外経済政策をとらない。
(3) 当分、米ドルが国際通貨の役割の主要部分を占めるであろう。それゆえ、米国に節度ある金融・財政政策を要請するとともに、可能な限りドルの国際通貨としての役割に協力する。例えばOPEC諸国への国債売却等、準備資産の多様化に貢献する。
(4) このために、日本は、金利の自由化、残存規制の削減を進め、金融市場の一層の開放に基づく円の国際化に向けて努力する。
(5) 長期的には、ファンダメンタルズの改善等、フロート制における管理の必要を減ずるような条件をつくり出すことに協力し、また、中心的準備資産としてSDRの役割強化を支持する。

三 国際貿易と産業調整
(1) 東京ラウンド合意を率先して実行し、開放貿易体制を推進する。
(2) 積極的産業調整を進め、長期的な経済発展基盤の整備に重点をおく。特定の産業や地域への保護助成は最小限にとどめ、基準と期限を定める。このためにも、中期的には五パーセント前後の経済成長率を維持することが重要である。
(3) 国際・国内流通機構の改善を進め、透明度を高める。
(4) 電々公社等の政府調達に関しては、国際コードをふまえながら、さらに一層の市場開放を行う。

四 経済安全保障
(1) 産油国との対話を深め、石油以後をも展望した経済開発に協力する。
(2) 代替エネルギーの開発利用への国際研究協力を進め、そのコストを分担する。環境汚染への対応をも考慮する。
(3) 省エネルギーの促進には、主として価格機能を利用し、米国等諸外国にも同様の努力を強く求める。
(4) 農産物貿易について漸進的市場開放を基本としながら、備蓄、輸入先の多角化など食糧供給の安定確保に努める。
(5) 長期的には、土地基盤の整備、土地利用制度の改善、農業試験研究の充実等により国内農業生産能力を高めるとともに、第三世界の農業開発に協力する。

五 国際資本移動と直接投資
(1) 資本が国境を越えて有効利用されることは、わが国に利益をもたらすと同時に、世界の発展にも貢献することになる。この点で、有事規制を除き、外為法、外資法が自由化の方向へ改正されたことは歓迎される。
(2) 同じ趣旨に沿って、各国の歴史的特殊性を考慮しながらも、国内金融行政としては、国際協力を目指しつつ”相互主義”に近づける努力をする。
(3) 直接投資については、政府が介入すべき分野とそうでない分野を峻別すべきである。前者は、投資保証協定、租税条約、情報サービス提供などを含む。後者の例は、わが国自動車企業の対米進出問題に対する日米両国側の政治介入である。
(4) 企業や人材の国際化にあたり、公共的分野における制約の中で是正すべきものがいくつかある。その代表例は、外人教師に国立大学を開放することである。

六 南北問題と経済援助
(1) 南北対立の激化は、日本に最も重大な悪影響を及ぼす。多様化する南の諸国の要求に対しては、経済合理性を考慮しつつ、積極的に協力する。政府開発援助(ODA)、特恵、技術移転、緩衝在庫、共通基金、人物交流の拡大などは、その例である。
(2) 途上国からの製品輸入の増加をはかり、これと(1)で述べた経済協力措置を含めた「総合経済協力」の飛躍的拡大をはかる。
(3) 日本は、新興工業国(NICS)に対し、率先して市場を開放する。NICSの成功は、自由貿易体制を強化し、また地域的にもアジア・太平洋地域の繁栄をもたらす。

七 先進諸国と日本との関係
(1) 一九八○年代においても、先進諸国における日本の経済的位置はさらに高まるであろう。その間、国際的経済摩擦が種々な形で発生するのを完全に避けることはできないが、日本としては、あくまでも国際協力を進めるという形で、これに対処する。
(2) 国際協力にあたっては、直接的な軍事協力は早急に拡大せず、軍事以外の経済・外交・文化・科学・技術等の協調面で、他国よりも積極的な貢献を行う。
(3) 日本に関する欧米諸国の古い固定観念を払拭し、認識ギャップを是正するため、文化・広報活動を強化する。また、東西関係・南北関係においても情報収集・分析能力を高め、それをもとに自由先進地域と社会主義圏、第三世界諸国との相互理解と信頼を深めることに寄与する。
(4) 日本国内では、国際協調の強化に必要な経済構造の変革(リ・ストラクチャリング)を進める一方、社会保障の充実、消費者利益の擁護、生活環境の整備、労働条件の向上等、生活の質を高めて、生産における「活力」と生活における「ゆとり」とのバランスをはかる。

八 経済政策運営における国際協調
(1) 今後とも石油赤字、インフレ、低成長が予想される状況の下で、主要工業国が世界的観点から、経済安定化政策(有効需要管理政策、供給条件整備政策)の国際協調を進める。
(2) 具体的手段としては、先進国首脳会議、OECD、IMF等の場において緊密な協議、協力目標の設定等を積み重ねるほかはない。
(3) 国際協調の強化が、日本及び世界に巨大な有形.無形の利益をもたらすこと、しかしその反面、日本の経済力にふさわしいコスト負担を伴うことについての国民の深い理解を求める。そのための税その他の必要な負担の増加について国民の積極的協力を期待したい。

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