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第19回 研究テーマ及び受賞者名

『メキシコの伝統的な都市型住居建築および郊外型住宅建築(アシエンダ)を、気候風土への建築的な適応という視点から調査し、環境共生のあり方を模索するとともに、メキシコ・コロニアル建築の固有性を探る研究』

楠原 生雄(設計事務所KMD・Mexico設計者)
 
<メキシコ・コロニアル建築の再定義につながる研究を>

 この度は、大平正芳記念財団「第19回環太平洋学術研究助成費」の助成対象に選定して頂けたことを、大変名誉に思います。この様な形で研究の機会を与えてくださる大平正芳記念財団とその関係者の方々、選考委員の先生方に深く感謝申し上げます。
  私がメキシコの建築に興味を抱き始めたのは学生時代からで、当初は日本とは全く違った気候風土に根ざした強い土着的特質が地域固有の造形言語として確立されているメキシコ近代建築に強く惹かれました。卒業後渡墨し、現地での設計実務やメキシコ建築に関する研究および執筆活動を通じて見えてきたことは、そのメキシコ近代建築が、古代文明の遺跡群や植民地時代の建築という長い文化的繁栄と蓄積の上に成立つものであるということでした。そして現在、植民地時代の住居系建築を代表し郊外や田園でその土地の自然と調和した“アシエンダ”と呼ばれる荘園の建築物に注目するようになりました。
  今回の研究テーマは、これらメキシコの伝統的な住居建築を歴史的建築・地域文化という視点のみではなく、環境共生という視点も含めて研究するというものです。近代的な都市インフラを持たなかった時代に人々が毎日使いつづけた伝統的住居という建築には、各地域の気候風土において快適に暮らすための知恵や工夫が蓄積されており、こうした建築的知恵を再発見しそれを現代の建築にフィードバックする方法を見出すことで、サステイナビリティすなわち持続可能な発展という現代社会が背負う課題に建築の分野から貢献したいと考えています。また同時に、現地の環境に適応する過程で生まれた地域固有の建築要素を見出していくことは、まさにメキシコ建築の本質・固有性に迫ることでもあります。こうした視点を持って研究を行い、これまで単に西洋建築の亜流として軽微に扱われがちであったコロニアル建築の再定義につなげたいと考えています。
  研究成果とともにメキシコ建築の魅力を建築遺産や地域文化として日本社会に伝えられれば、長期的な国際交流の一助として環太平洋連帯構想に貢献できるものと思います。知識・経験ともに未熟ですが、ご期待に応えられるよう努力致します。

略歴
1974年東京生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業、2000年東京大学大学院工学系研究科建築学修了。設計事務所Kaplan・McLaghlin・Daiz Mexico City Officeにて設計者として勤務。イベロアメリカ大学建築学科長Jose Luis Cortes教授の研究アシスタント。メキシコ・コロニアル建築を中心に、メキシコ建築史全般について研究。著書に『世界の建築・街並みガイド6 アメリカ/カナダ/メキシコ』(共著、メキシコ編監修・著、2004年)。

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