インフォメーション

第19回 研究テーマ及び受賞者名

『ウィルソン外交と日本―理想と現実の間 1913-1921』(出版助成)

高原 秀介(同志社大学法学部嘱託講師)

<アメリカ外交における「理念と価値」の重要性>

この度は、拙著『ウィルソン外交と日本 理想と現実の間1913-1921』(株式会社創文社より近刊予定)を大平正芳記念財団「第19回環太平洋学術研究助成費」の受賞対象に選定して頂き、誠に光栄に存じております。このような歴史と由緒ある賞を頂けることを、大変嬉しく思うとともに、誠に名誉なことと感じております。貴財団の関係各位、選考委員会の先生方、そして研究上お世話になった方々に、深く感謝申し上げます。
 大学院入学以来、指導教授である神戸大学の五百籏頭眞先生との対話を通じて、「アメリカの東アジア政策とは何か?」ということに漠然とした疑問を抱いておりました。そして、アメリカの東アジア政策をめぐって、日米が経済的利害よりもむしろ理念的側面で鋭く対立した恐らく最初のケースが、ウッドロー・ウィルソン政権期の日米関係であったことに着目し、これを研究テーマに設定することにしました。
 帝国主義以後の時代に頭角を現した日米両国がどのような理由で戦争という破局に至ったのか。その理由を考えるうえでも、ウィルソン政権期のアメリカの東アジア政策は、アメリカが経済的利害よりもむしろ普遍的価値や制度、もしくは理念の実現を対外政策の目標に掲げることがあり得ることを如実に物語っております。我々日本人は、アメリカ外交に内在する理念や普遍的価値といった側面を、アメリカが自国の経済利益を追求するための隠れ蓑として捉えがちであります。また、アメリカが提唱する理念や普遍的価値が得てして具体性を欠くために、国際政治に混乱を招くことは多々見られます。しかしながら、アメリカの掲げる普遍的価値や理念、ないしは制度といったものが、長期的には影響力を持ち続けてきたことを我々は見失ってはならないのではないでしょうか。
  この度の受賞を励みに、今後も歴史研究を通じて、日本にとって死活的に重要な国であるアメリカの外交の本質に微力ながらも迫ることができるよう、一層研究に邁進してゆく所存です。
 
略歴
1992年関西学院大学文学部(西洋史学専修)卒業。1997年神戸大学大学院法学研究科博士前期課程終了。1997年-1999年日本学術振興会特別研究員(DC1)。1999年-2000年米国ペンシルヴァニア大学歴史学科客員研究員。2002年神戸大学大学院法学研究科博士後期課程終了(政治学博士)。同年より、同志社大学法学部嘱託講師(神戸大学非常勤講師、大阪外国語大学非常勤講師を兼務)。専門はアメリカ外交史、日米関係史、アメリカ=東アジア関係史。著書に、「米国のシベリア撤兵と日本」(軍事史学会編『20世紀の戦争』錦正社、2001年所収)、「ウィルソン外交と日本—その可能性と限界—」『創文』No. 463(2004年)、「ウィルソン政権と旧ドイツ領南洋諸島委任統治問題」『アメリカ史研究』第27号(2004年)、『ウィルソン外交と日本 理想と現実の間1913-1921』(創文社、2006年刊行予定)などがある。

1 2

3

PAGE TOP