『アジアの域内金融協力―金融「地産地消」モデルの模索』
清水 聡(しみず・さとし)(日本総合研究所主任研究員)
<アジアにおける域内金融協力推進の重要性>
この度は、拙著『アジアの域内金融協力-金融「地産地消」モデルの模索』(東洋経済新報社、2009年4月発行)に対し、大平正芳記念財団「第23回環太平洋学術研究助成費(出版助成)」を賜り、誠に光栄に存じます。このような歴史ある出版助成の対象に選定していただき、大変嬉しく、また名誉なことと感じております。大平裕理事長をはじめとする財団関係者の皆様、そして、ご多忙の中、拙稿にお目通しいただいた選考委員の先生方に厚く御礼申し上げます。
1997年のアジア通貨危機以降、通貨危機への対処と再発防止を目的に域内金融協力が進められてきました。これを推進することにより、域内金融統合の強化、すなわちアジア諸国の金融システムを整備し、その豊富な貯蓄を活用して域内の資金需要を満たすことが可能となります。このことは、通貨危機発生のリスクを軽減するとともに域内諸国の投資率や経済成長率の上昇に資すると考えられ、また、域内の実体経済の統合を支援する役割も期待されます。
このような問題意識に立ち、今回助成の対象となった拙著では、域内金融協力の中核となっているアジア債券市場の育成と為替政策協調の検討をとりあげました。域内金融統合の強化という観点からは、これら2つのテーマを併せて論じることにより、アジア諸国が取り組むべき金融システムの課題をより包括的に把握することが重要であると考えられます。また、本書は、現状をできる限り正確に分析し、どのような市場や制度を創出するかを考え、そのために行うべき政策を検討する、という実践的なスタンスに基づいて記述しました。
今般の世界金融危機の発生に伴って経済・金融情勢は大きく変化しており、域内金融協力の重要性がさらに高まると同時に、新たな課題も出てきています。今回ご助成いただいたことを励みに、アジア諸国の金融資本市場の発展に少しでも貢献できるよう、微力ながら研究を続けてまいりたいと考えております。
略歴
1959年東京都生まれ。1982年東京大学経済学部卒業。1999年法政大学経済学修士。2006年法政大学大学院社会科学研究科修了、経済学博士。1982年三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社、1998年(株)さくら総合研究所入社、2001年より現職。専門はアジア金融、国際金融、アジア経済。主な著書・論文に、『社債市場の育成と発展』(共著、法政大学出版局、2007年)、「人民元の均衡実質為替レートの推計」(アジア経済研究所『アジア経済』、2006年11月)などがある。