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第23回 研究テーマ及び受賞者

「通貨金融危機の歴史的起源―韓国、タイ、メキシコにおける金融システムの経路依存性」

岡部 恭宜(おかべ・やすのぶ)(東京大学社会科学研究所助教)
 
<アジアとラテンアメリカの比較歴史分析>

この度、第23回環太平洋学術研究助成費の出版助成を賜り、大変光栄に存じますとともに、大平正芳記念財団および運営・選定委員会の先生方に心より御礼申し上げます。
 本研究は、1990年代にラテンアメリカやアジアを襲った通貨金融危機とその後の金融再建について、政治学の歴史的制度論の立場から分析したものです。私が取り上げた韓国、タイ、メキシコでは、金融グローバル化の下で、同様の「21世紀型金融危機」に陥りながらも、危機の発生過程やその後の金融再建の内容に大きな違いが見られました。その理由について本研究は、危機と金融再建の歴史的起源が1960年前後に選択された金融システムにあり、各国の異なる金融システムが経路依存的に発展したために、結果に違いが生じたのだと論じています。
 私がこの研究を始めたきっかけは、外務省に勤務していた頃に遡ります。1994年にメキシコでペソ危機が起こったとき、私は中南米局におり、1997年にアジア危機が発生したときには経済協力局(当時)におりました。いずれのときも危機の動向を間近で見ていたはずなのですが、当時は担当が違ったため、私は関連業務に携わっておりませんでした。しかし、次第に、危機が各国に及ぼした重大な影響を知るにつれて、あのとき起こっていたことをもっと理解しておくべきだったと悔やむようになりました。
その後、大学院の博士課程に進学した頃から、当時の危機の研究をしてみたいという思いが強くなりました。その際、ラテンアメリカとアジアを比較するという研究計画を立てたのは、上で述べた経験から私にとっては自然な発想でした。実際にそのような研究は簡単ではありませんでしたが、三ヶ国それぞれの特徴を理解しつつ、比較分析の視座を探ることは楽しい作業でした。また、指導教官の恒川惠市先生がつねに比較研究を勧めて下さっていたことが、本研究を進める上での強い後押しとなりました。ここに感謝申し上げます。
 今後は、本研究を一日も早く出版できるよう努力するとともに、一層の比較研究に取り組んで参りたいと存じます。

略歴
 京都市生まれ。1989年、同志社大学法学部卒業。1988-1998年、外務省勤務(在スペイン大使館、在パナマ大使館、本省中南米局、経済協力局)。2006年9月-2007年3月、メキシコ・経済研究教育センター(CIDE)国際学部およびタイ・チュラロンコン大学経済学部にて客員研究員。2008年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。2008年より東京大学社会科学研究所、助教。専門は比較政治学、国際政治学。

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