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第33回受賞作及び受賞者名

『現代アメリカ選挙の変貌―アウトリーチ・政党・デモクラシー』(名古屋大学出版会 2015年)

渡辺 将人(わたなべ・まさひと)(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)

 このたびは、名誉ある大平正芳記念賞を賜り、誠に光栄に存じます。運営・選定委員の諸先生、財団関係者の皆様、本書執筆にあたりご指導下さった方々、アメリカでの現地調査にご協力下さった方、出版にお力添え下さった方など、すべての皆様に深くお礼申し上げます。  本書は、人種、民族、信仰、イデオロギー、地域などによって分断された「個別のアメリカ」と「統合的なアメリカ」の相互作用の実態を選挙過程から探ることを目的としています。選挙は政党や候補者が票を無心する機会ですが、他方で個別集団にとっては票と引き換えに自己主張する好機でもあり ます。活動家の政党への参与は、周辺的存在である彼らを主流に溶け込ませる包摂の営みでもありました。  こうした問題意識を踏まえ、本書は現代アメリカの政党と候補者が個別の選挙民集団にアウトリーチを展開する過程を分析したものです。とりわけ2000年代以降、アメリカではオンライン技術の進歩が「地上戦」の効果を再有効化し、従来のメディア戦略では糾合しにくかった争点志向の活動家を予備選挙、全国党大会、政権運営など異なる段階で活性化させました。固定的な人間関係に依拠していたかつての「マシーン」の代替として新たな「コミュニケーション空間」が形成されているとすれば、1970年代以降の「候補者中心選挙」「政党衰退論」の修正が必要であると考え、アメリカの政党をめぐる新たな構造概念の提示を試みました。  選挙民集団別のアイデンティティと利益に訴えかけるアウトリーチには、分極化の促進という側面も介在し、デモクラシーの進展と分断の両義性が潜んでいることも否定できません。それだけに選挙における集票過程の分析は、アメリカ社会の変容を多面的に捉える作業と深く連動していると認識しており、残された課題の大きさを感じております。このたびの受賞を継続的な研究の励みとさせていただきたく存じます。

略歴
1975年東京生まれ。シカゴ大学大学院国際関係論修士課程修了。早稲田大学大学院政治学研究科にて博士(政治学)取得。テレビ東京報道局政治部記者、コロンビア大学およびジョージワシントン大学客員研究員を経 て2010年より北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授。専門はアメリカ政治。主著に『アメリカ政治の壁』(岩波書店、2016年)、『評伝バラク・オバマ』(集英社、2009年)、『現代アメリカ選挙の集票過程』(日本評論社、2008年)など。

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