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第27回受賞作及び受賞者名

『<民主政治>の自由と秩序
―マレーシア政治体制論の再構築』
(京都大学学術出版会 2010)
鈴木 絢女(福岡女子大学講師)

このたびは、大平正芳記念賞を賜り、財団関係者の皆様、本書執筆にあたりご指導くださったすべての方に感謝いたします。震災を乗り越え、日本の新しい夜明けとなるべきこの年に、このような栄誉にあずかったことを心に刻み、社会に貢献しうる研究成果を出すべく、研鑽を積んで参ります。
本書執筆を導いたのは、民族や宗教、利益の異なる集団が、いかにして一つの共同体を構成し、共存しうるかという問いでした。冷戦終結後、自由民主主義的方法が、この問いに対する支配的な答えになりました。しかし、民主化して間もない国々で起きた内戦によって、寛容や自制といった価値の内面化なしには、この方法が実現しえないことが明らかになりました。また、個人の自由よりも共同体の利益を優先させる「アジア的価値」が主張されたのも、同じ時期でした。
冷戦後の世界は、私が、個人と共同体、自由と秩序の緊張関係というテーマに取り組むきっかけを与えてくれました。
この問題意識のもと、本書は、多民族構造を持ち、急速な社会変化を経験しつつも、暴力を伴う対決を避け、国民国家として発展し続けるマレーシアの政治体制に焦点を当てています。従来、同国の政治体制は、政府や多数派民族による恣意や抑圧という観点から理解されてきました。しかし、政治的権利を制限する法の成立と運用を丹念にたどる過程で浮かび上がったのは、政府、与野党、市民団体、多数派民族、少数派民族など様々なグループが、それぞれの権利、権力、経済的利益を守るために競争し、協議し、妥協点で法律を成立させることで、互いの権利や権限に縛りをかけつつも、互いを正当な政治主体として認めるという、いわば、「合意に基づくルール」による共同体の秩序化のあり方でした。
マレーシアの人々が、今後、世代や社会の変化に合わせて新たな「合意」を作り直し、より大きな個人の自由の実現に向かっていくのか。本書では、マレーシアのみならず、すべての若い多民族国家にとって重要なこの問いに、十分に答えられませんでした。
今後は、受賞を励みに、この課題に取り組んでいく所存です。

略歴
1977年横浜市生まれ。2000年慶應義塾大学法学部卒業。2008年東京大学大学院総合文化研究科より博士(学術)取得。日本学術振興会特別研究員、マレーシア国立マラヤ大学ポスドク研究員などを経て、2011年より福岡女子大学講師。政治体制論、マレーシア政治、日本―マレーシア関係のほか、東アジアの政治経済、特に民主制における財政運営について研究している。

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