『スハルト体制のインドネシア
―個人支配の変容と一九九八年政変』(東京大学出版会 2010年)
増原 綾子(亜細亜大学国際関係学部専任講師)
この度は大平正芳記念賞という大変に名誉ある賞を受賞し、光栄に存じます。財団理事の皆様、運営・選定委員の先生方に深く感謝致します。どうもありがとうございました。
今年に入って中東・北アフリカ地域で独裁政権が一般市民の平和的なデモによって動揺するという出来事が起き、いくつかの国々では独裁政権が市民のデモで倒されました。拙著が明らかにしようとしたのは、13年前の1998年にインドネシアで起こったスハルト独裁政権の崩壊です。今回の中東政変のように、インドネシアでは30年以上にわたったスハルト大統領による強権的な支配が、市民の平和的なデモが展開される中で倒れました。しかし、インドネシア政変は、「政府対市民」という対立構図の下で「市民が政府に勝った」というシンプルな解釈では説明できないものでした。なぜなら、デモは、軍の支援を受けた政権を倒すことができるほどに大規模なものではなかったからです。
それほど大規模ではなかったデモがなぜ独裁政権を倒すことができたのかといえば、実は政権内部から造反が起こったからです。スハルト政権を30年間支え続けた与党の中から造反が生まれ、造反グループは民主化を求める市民勢力と結び付き、政権内外からの退陣圧力によってスハルトは辞任せざるを得ない状況に追い込まれたわけです。
では、なぜ与党の中から造反グループが現れたのか、なぜ彼らが民主化勢力と連携することが可能となったのか。これらの問いに答えを見つけるために、30年間にわたる政治エリート、特に与党議員に関するデータを整理し、民主的な思想を背景に持ったエリートが与党内に取り込まれ、与党の性格を変容させ、与党と軍・大統領との関係性をも変化させていく過程を分析しました。民主化運動に共鳴し、民主化勢力と連携した彼らこそが、独裁政権の崩壊に貢献したのです。
データの分析には多くの時間を費やしましたが、インドネシア政変の性格を特徴付ける上で非常に重要であったと考えます。その地道な作業はこのような形で実を結びましたが、その過程で多くの先生方、出版社の方々から御指導・御助力を賜りました。御指導・御助力いただきましたすべての皆様に御礼を申し上げたいと存じます。
略歴
1994年3月東京大学教養学部教養学科国際関係論専攻卒業。1996年3月東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻、修士課程修了(修士号取得)。1996年4月東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻、博士課程進学。2000年6月~2002年10月インドネシア大学日本研究センター、客員研究員。2007年10月東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻修了(博士号取得、学術博士)。2009年4月亜細亜大学国際関係学部専任講師。