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第30回 研究テーマ及び受賞者

「南インドの芸能的儀礼の民族誌―生成する儀礼と神話」

古賀 万由里(こが・まゆり)(開智国際大学専任講師)

 この度は、第30回環太平洋学術助成費(出版助成)を賜り、大変光栄に存じます。選定してくださった、大平正芳記念財団の皆さまと、運営・選考委員会の先生方には、深く感謝しております。
  本書は、インド南部のケーララ地方で行われている、「テイヤム」と呼ばれる民俗宗教儀礼から、人々の「カースト」と職業意識、霊的なものに対する信仰とそれによって形成される世界観を描き、さらにそれが、芸能として受容されることによって引き起こされる葛藤を分析したものです。
  まず、儀礼が地域の王を中心に、いかに発展してきたのか、また各カーストおよび家の人々を、いかに儀礼がつなげているのかを明らかにしました。また、儀礼の所作や次第、詩に着目し、儀礼や神話が、カースト、王権、タラワードゥ(家)との関係のなかで、歴史的に変化している様子を明らかにしました。
  次に、現代社会の変化に応じて変容し、再生する儀礼を分析しました。第一は、儀礼としての復興です。土地改革と母系制の崩壊で、儀礼を中断していた家が、1990年代になると儀礼を再開します。第二は、担い手の社会的地位の変化です。かつてはカースト社会の底辺に位置づけられていた担い手が、1960年代以降、政府から受賞したり、海外に招聘されることにより、アーティストとしての地位を獲得し、社会的ステイタスを上昇させています。第三に、儀礼のアート性と政治性の問題です。テイヤムは単なる宗教儀礼ではなく、見る人によって様々な側面をもつパフォーマンスであり、葛藤と議論の場であるといえます。
  大平正芳記念財団の出版助成をいただき、本書が出版されることは、私にとっても、またケーララの人々にとっても大変喜ばしいことです。支援してくださった方々に深く御礼申し上げます。

略歴
1994年慶應義塾大学経済学部卒業後、同大学社会学研究科に進学、2001年博士課程を満期退学する。1997年から99年まで、インド国立デリー大学の社会学部に所属しながら、インドのケーララ州北部において、儀礼と村落社会について研究を行う。2001年から2004年まで日本学術振興会特別研究員。2004年に学位を取得。立正大学、慶應義塾大学、東洋大学、関東学院大学などで非常勤講師として勤める。2016年4月から開智国際大学専任講師。

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