「合意形成モデルとしてのASEAN-国際政治における議長国制度」
鈴木 早苗(すずき・さなえ)(日本貿易振興機構 アジア経済研究所 研究員)
ASEANの利害調整メカニズムの解明
このたびは名誉ある賞を賜り光栄に存じますとともに、大平正芳記念財団の関係者の皆様および選考委員会の先生方に心より御礼申し上げます。
本研究は、アジア太平洋地域において重要なプレーヤーとなっている東南アジア諸国連合(ASEAN)の利害調整メカニズムの解明に取り組んだものです。ASEANでは、コンセンサス制に基づく意思決定が採用されています。この手続きのもとで加盟各国には拒否権が与えられ合意の成立を阻むことができますが、この拒否権は必ずしも行使されるとは限りません。ASEAN加盟諸国が容易に解消しそうもない利害対立を抱えながらも合意を形成してきたことを考えると、加盟諸国は拒否権をあえて行使しないこともあるといえます。
それでは、加盟国はどのような条件・状況下で拒否権の行使を控えるのか。この問いに答えるため、本研究では「議長国制度」という分析枠組みを提示し、ASEANの合意形成において拒否権の不行使を促す「利害調整ルール」として機能している点を実証することを試みました。議長国制度のもとでは、加盟国が議長として会議の議事運営を担うために、自国の利害をASEANの合意に反映しようとします。本研究では、こうした議長国の意図を許しながらも、議長国に一定の権限を与えることによって、拒否権不行使の傾向がみられ、ASEANの合意が成立しうることを実証しました。
一次資料の収集やインタビューを実施するため、東南アジア諸国に幾度か訪問しました。その際、政策担当者へのインタビューを通して現場感覚を養うことがとても重要なことに改めて気づかされました。ASEANの会議にオブザーバー参加させてもらい、利害調整の現場を観察したことも本研究を進める上で大変参考になりました。
ASEANだけでなく、多くの国際組織や国際会議においてコンセンサス制にもとづく意思決定がおこなわれています。しかし、コンセンサス制のもとで利害調整がどうなされるかについての研究は多くありません。今回の受賞を励みに、今後はさまざまな国際組織や地域機構における意思決定メカニズムの解明を進めていきたいと思います。
略歴
2001年3月 東京大学大学院総合文化研究科 修士課程修了
2011年7月 東京大学大学院総合文化研究科 博士(学術)
2001年 アジア経済研究所入所
2005-2006年 戦略国際問題研究所
(マレーシア)客員研究員
2006-2007年 戦略国際問題研究所
(インドネシア)客員研究員