インフォメーション

第20回 受賞作及び受賞者名

『イギリス帝国とアジア国際秩序―ヘゲモニー国家から帝国的な構造的権力へ』

秋田 茂(大阪大学大学院文学研究科教授)

<グローバルヒストリーの構築をめざして>

 私は本来、西洋史研究の一部であるイギリス史研究者として、英印植民地関係の研究を始めました。その過程で、戦後の日本でも多数の優れた研究が積み重ねられてきたイギリス史研究を、アジアの側からグローバルな文脈で見直したい、と考えてきました。このささやかな拙著が、環太平洋地域、アジア太平洋研究の奨励を目的とされる貴財団によって評価され本賞を賜りましたことは、私にとって至上の喜びです。
  私の研究上の転機は、前任校の大阪外国語大学で、「アジア太平洋研究会」を通じて多数のアジア地域研究の専門家である同僚たちと、現代アジアの政治経済や現代史を自由闊達に論じる機会を与えられたこと、また、二度にわたるロンドンでの在外研究を通じて、アジアに理解のある多くの外国人研究者と出会い議論を重ねることができたこと、さらに、京大人文研での「帝国」研究や、文部省特定領域研究「現代南アジア」などの共同研究プロジェクトに関わることができた点にあります。その過程で私の研究領域は、イギリス国内史からイギリス帝国史へ、そしてアジア国際関係史へと広がってきました。
  現在は、拙著でも論じましたが、関係史的な手法を使いながら、さらに視野を広げてグローバルヒストリーの構築を模索しています。世界のグローバル化が急速に進むなかで、日本の歴史家として、グローバル化の歴史的起源やその功罪を考察すること、特に、アジア太平洋地域の国際秩序とイギリス帝国との相互連関性を明らかにすることに力を入れています。今後は、ロンドン大学LSEのオブライエン教授を中心とした、世界の主要な経済史家で構成されるGEHN(Global Economic History Network)とも協力しながら、従来の西洋中心史観を相対化して、アジア世界の重要性を明らかにするグローバルヒストリー研究の発展に、一層努力していきたいと思います。

略歴
1958年広島県生まれ。81年広島大学文学部西洋史学専攻卒業、85年同大学院博士課程後期中退。85年から2003年まで大阪外国語大学外国語学部勤務。2001-02年ロンドン大学(LSE)客員教授。現在は大阪大学大学院文学研究科・世界史講座教授、博士(文学)。編著に『1930年代のアジア国際秩序』(渓水社),“Gentlemanly Capitalism, Imperialism and Global History”(London,2002)

1

2

3 4 5
PAGE TOP