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第35回 受賞作及び受賞者名

『アメリカ大統領と政策革新― 連邦制と三権分立制の間で』
(東京大学出版会 2018年 )

梅川 葉菜(うめかわ・はな)
(駒澤大学法学部政治学科専任講師)

この度は、名誉ある大平正芳記念賞を賜り、大変光栄に存 じます。大平正芳記念賞の運営委員、選定委員の先生方、財 団関係者の皆様に心より御礼申し上げます。また、長きに渡って多大なご支援を賜った指導教官の先生、ご指導いただ いた先生方、本書を完成まで導いてくださった東京大学出版 会の皆様、そして本書の刊行を可能にしてくださった全ての 皆様にも、心より感謝申し上げます。本書を執筆する手がかりは、アメリカ政治の根幹をなす連 邦制と三権分立制の双方の繋がりでした。長らくアメリカ 政治研究は、これらの制度を、互いに独立したものと捉えて きました。ところが、近年のアメリカ政治を見ていると、大 統領と議会の間の争いに州政府が割って入る、ということが しばしば生じております。本書では、大統領が州政府を味方 につけることで、議会の新立法によらずに政策を変更すると いう、アメリカの三権分立制の一般的な理解から乖離した手 法を獲得し発展させていった経緯を歴史的に明らかにしま した。それにより、三権分立制と連邦制の間に、実は密接な 結びつきがあることを示すことができました。本書が着目した大統領の新手法とは、アメリカ政治学にお いてもあまり知られていない特区認可権(waiver authority) です。特区認可権とは、連邦法に従って州政府が実施する政 策に関して、従来の連邦法の下では実施できないものの、そ の法律の目的を実現するためのより良い方法だと見込まれ る「特区事業」を特定の地域、期間内で執行できるよう州政府 に認める、執政府に与えられた権限です。本書は、レーガン 政権からオバマ政権までの歴代政権が、特区認可権を、議会 を迂回する政策変更手段として利用し、福祉、医療保険、教育 の分野で政策革新に成功したことを示しました。このように本書は、現代アメリカ政治についての理解を深 めることに一定程度の貢献を果たしたものと考えておりま す。このたびの受賞を励みとし、より一層、研究に精進して まいります。

略歴
1984年福井生まれ。2008年東京大学教養学部卒業。2010年同大学院法学政治学研究科総合法政専攻修士課程修了。2016年同専攻博士課程修了、博士(法学)。この間、2013-2015年イェール大学国際地域研究センター客員研究員及びイェール大学政治学部客員研究員、2015-2016年日本学術振興会特別研究員(PD)。2016年より駒澤大学法学部政治学科専任講師。専門はアメリカ政治。主な著作に『ティーパーティ運動の研究』(共著、NTT出版、2012年)、『アメリカ大統領の権限とその限界』(共著、日本評論社、2018年)など。

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