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第21回 研究テーマ及び受賞者

『冷戦期オーストラリアの安全保障と地域協力——複合的な集団形成による近隣安定化の模索』

山元 菜々(やまもと・なな)(東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻研究生)

<受賞の喜びを実感できる日まで>

  この度、大平正芳記念財団「第21回環太平洋学術研究助成費」の助成対象に選定されたことを、心より名誉に感じております。受賞通知を頂いたときは、研究計画が評価されたことへの喜びと、オーストラリアで再び現地調査を実施する機会を得たことへの喜びが湧き上がり、本研究を一日も早く博士論文にまとめ上げる決意を新たに致しました。自分の思い描く研究を継続していく上でまたとない機会を与えて下さった財団関係者の皆様、選考委員会の先生方に深く感謝申し上げます。
  本研究の目的は、これまで米国との反共同盟の展開を中心に説明されてきた冷戦期オーストラリアの安全保障協力の特質を再考することにあります。この時期オーストラリアから提起された安全保障協力構想を拾い集めてみると、反共同盟の範疇には収まらない事例が数多く存在することが分かります。特に、1960年代後半から70年代にかけて、オーストラリアは近隣の国々との安全保障協力を基軸とする構想を相次いで打ち出し、それらを並立的に推し進めることに重きをおいた政策を展開しています。本研究の狙いは、この複合的な提携の構図と形成過程を描き出し、その背後にあるオーストラリアの安全保障観を解明していくことにあります。
  私が大学院に入学した頃は、冷戦終結に伴う安全保障環境の変動が指摘される中、アジア太平洋の国々による地域安全保障協力の重要性が国内外で唱えられ、二国間防衛交流やASEAN地域フォーラムの行方が注目を集めていました。そのような雰囲気の中でアジア太平洋信頼醸成の歴史的背景に興味を抱くうちに、この問題をめぐるオーストラリアの深い関わりとユニークな構想、その脈々たる頓挫と再起の軌跡に惹きつけられ本研究に至ります。本研究につながる問題意識が育まれたのは、自分を取り巻く世界が大きく変動する時期を自由で学際的な学習環境の中で過ごし、国内外で多くの人々と関わりながら問題を掘り下げる機会に恵まれたからに他なりません。
  本研究が近い将来に博士論文として実を結ぶとき、私の研究活動を支えて下さっている方々に微力ながら恩返しできるとともに、私自身もまた、本当の意味で受賞の喜びを実感できるのだと思います。この度の受賞を真摯に受け止め、一層気を引き締め本研究に励みたいと思います。

略歴
1997年東京大学教養学部教養学科卒業。1999年東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻修士課程修了。2007年同博士課程退学後、博士号取得のため同大学院研究生。2003-04年成蹊大学アジア太平洋研究センター特別研究員。2006年ニュー・サウス・ウェールズ大学/オーストラリア国防大学大学院研究生。専門は国際関係論、アジア太平洋安全保障協力、オーストラリア外交。主な論文に「アジア太平洋の多国間安全保障協力とオーストラリア」『国際関係論研究』第17号(2001年)、「転換期オーストラリアの安全保障と地域協力1967-1974」『オーストラリア研究』第20号(2007年)。

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