『Japan’s Financial Crisis-Institutional Rigidity and Reluctant Change』
Jennifer Amyx(ペンシルヴァニア大学政治学部助教授)
<金融危機の政治力学の研究>
大平正芳先生の数々のご貢献の中で特に顕著なものは、アジア太平洋地域における経済協力の分野に蒔かれた種ではないかと思います。もし現在のASEAN+3が行っている金融協力を御覧になったら、先生はお喜びになるのではないでしょうか。その中で注目すべき点の一つは、アジア太平洋地域に属する多くの国々が共に経験した金融危機が、当分野における協力の媒介となったことです。
受賞作の著書は、1990年代に至るまでの日本金融市場の安定とバブル経済崩壊後の不良債権処理の先送りや経済低迷を比較し、財務省(当時は大蔵省)を取り巻くインフォーマル政策や行政ネットワークに焦点を当て分析を試みたものです。この分析において、何が危機に対する当局の対応を遅らせたのかをより深く理解するよう努めました。なぜならこの金融危機は、日本経済の長期不況だけではなく、アジアの国々や世界の金融市場にまで多大な悪影響をもたらしたものだからです。
今回は主に日本に焦点を当てましたが、日本金融と他国、特に非公式な関係が政治、経済、社会的側面に浸透している東アジアの国々において、インフォーマル関係や政策ネットワークがどのような役割を果たしているのかという比較分析も試みました。日本の政治経済が金融危機にいたるまでに辿った経路を分析することにより、アジア太平洋地域に属する国々の政府が直面している挑戦に光を当てられると思います。彼らの挑戦をよりよく理解することで、これらの国々が協力して危機の再発を防げるよう、もしくは1990年代後半よりも上手く対応できるように支援できることを期待しています。
大平財団によって私の著書が評価され、本賞を受賞いたしましたことは、私にとって至上の喜びです。大平財団の皆様ならびに選考委員の諸先生に厚く御礼申し上げます。そして1996年から2003年にかけての7年間の研究期間中、沢山の方々から頂いた寛大な御支援と御協力には大変感謝しております。特にお忙しい中、インタビューで貴重な情報や御経験をお話しして下さった方々に、心からお礼を申し上げます。今回の受賞を励みとし、東アジアの国々が直面している政治経済における挑戦に関してさらに良い研究成果を出せるよう、今後も努力していきたいと思っております。
略歴
1998年スタンフォード大学政治学博士号を取得し、オーストラリア国立大学ポストドクフェロー、研究フェロー、日本銀行、経済産業研究所や財政金融研究所客員フェローを経て、現在ペンシルヴァニア大学部助教授(政治学部)。今年はサバティカルでスタンフォード大学太平洋研究所にて、主に日本の公的金融機関を巡る政治や金融行政を研究している。Peter Drysdale との共編、「Japanese Governance: Beyond Japan, Inc.」ほか、日本の金融行政やアジア地域における金融協力を巡る政治経済に関する論文、多数。