『アジア太平洋諸国経済の相互依存関係への新貿易指数アプローチ』
熊倉 正修(くまくら・まさなが)(大阪市立大学大学院経済学研究科准教授)
<政治経済環境が劇的に変化した中で>
この度、私が申請いたしました「アジア太平洋諸国経済の相互依存関係への新貿易指数アプローチ」を第22回環太平洋学術研究助成費の対象にご選定いただき、誠に光栄に存じております。大平正芳記念財団の運営・選定委員会の先生方と関係者の皆様に厚く感謝申し上げる次第です。
故大平正芳首相が「環太平洋連帯構想」を提唱されてから四半世紀余りになります。その後、アジア太平洋諸国をめぐる政治経済環境は劇的に変化し、これらの国々に関心を持つ研究者の数は飛躍的に増加しました。しかし、研究者の層が広がる中で研究の専門性が高まり、研究者間の「棲み分け」も少なからず進行しました。私の専門の経済学においても、経済成長論や国際金融論、貿易論や多国籍企業論などの分野の専門化と細分化が進み、アジア太平洋地域に関心を持つ各分野の研究者が他分野の最先端の成果を正確にフォローし、それらをもとに地域経済全体に関わる課題への対処法や地域の将来像を構想することが次第に困難になりつつあります。
今回の私の研究の第一の目的は企業の多様性を重視する最新の貿易理論と詳細な産業・貿易データを用いて日本を含むアジア太平洋諸国の経済の連関関係を再検討することにありますが、第二の目的として、「共通言語」を話す少数の専門家以外の方々に研究成果を正確に伝達するためのツールを開発することを掲げております。その方法として経済指数の活用を重視し、貿易と為替レートに関連するいくつかの経済指数の開発と計測を行うと同時に、既存の指数の有用性を今日のアジア諸国経済の現状に照らし合わせて検証することも目指しております。世界全体がネットワーク化時代に突入する中、専門分野を異にする研究者間や研究者と政策コミュニティーの知的インターフェースを強化することの重要性は今後ますます高まってゆくと考えられます。そのことに少しでも貢献できますよう、今後鋭意研究を進めて参りたいと存じます。
略歴
1990年東京大学文学部卒。1993年アジア経済研究所開発スクール修了。1994年ロンドン大学東洋アフリカ学院修士課程修了。1994-1996年アジア経済研究所勤務。1997年ケンブリッジ大学政治経済学部修士課程修了。2002年同博士課程修了。2002年大阪市立大学大学院経済学研究科専任講師、2004年同助教授、2007年同准教授(現在に至る)。2005-2006年日本貿易振興機構アジア経済研究所客員研究員。専攻は国際貿易論、国際金融論、東アジア諸国の金融通貨政策。