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第22回 受賞作及び受賞者名

『韓国経済の政治分析―大統領の政策選択』(有斐閣 2005年)

大西 裕(おおにし・ゆたか)(神戸大学大学院法学研究科教授)

<大統領権力を制約するもの>

 拙著に対し、第22回大平正芳記念賞を賜りますことを、非常にうれしく、光栄に存じております。同賞は、私にとってあこがれでした。それは、私が尊敬し、目標としてきたアジア太平洋研究の多くの先生方がこれまでこの賞を受賞されてこられたからです。先生方は依然私にとって遠い目標でありますが、今回の受賞は大変励みになります。大平正芳記念賞運営委員会、選定委員会の先生方ならびに貴財団関係者の方々に厚くお礼申し上げます。
 私がこの度の受賞作につながる研究をはじめた根本的な動機は、強いはずの韓国の大統領が経済政策に関しては影響力を払わないとされてきたことに対する疑問でした。ご承知のように、韓国の大統領は、民主化以前も以後も、日本の首相はもちろんのこと他国に比して強い権力を有しているといわれます。他方、経済政策に関しては、官僚が決定的に重要であるといわれてきました。これは不思議です。内政における最重要課題である経済問題に大統領が関心を持たないはずがなく、強力な執政者が重要な関心事項に影響力を払わないのは、政治学の常識からすれば不自然です。とすれば、何が大統領権力に制約を加えているのか、いかなる理由で大統領は官僚に委任しているのか。私のたどり着いた結論は、大統領は、民主化以前も以後も、世論と政治制度に拘束されているということと、官僚への委任は大統領が志向する基本方針の範囲内に限定されていたということです。そうであれば、韓国が民主化以前に急速な工業化を成し遂げたのは、通説的に指摘される強力な独裁者の存在以上に、非民主的な体制にもかかわらず選挙を通じて権力者が世論の脅威を感じていたことが重要であったということになるでしょう。
 政治制度と世論への敏感さの重要性は、現代の韓国の他の政策分野でも、他のアジア太平洋諸国でも同様だと思います。であれば、この二つの違いが、政策分野ごとの、国ごとの違いを生み出している重要な要因だということになるでしょう。この点を理解すべく、今後一層精進していきたいと思います。

略歴
1965年兵庫県生まれ。1989年京都大学法学部卒業。1991年京都大学大学院法学研究科修士課程修了。大阪市立大学法学部助手(1993-1994年)、助教授(1994-2005年)を経て、現在、神戸大学大学院法学研究科教授。専門は行政学、韓国の政治経済。共著・執筆分担に『新版 比較・選挙政治』(ミネルヴァ書房、2004年)、『現代韓国の市民社会・利益団体』(辻中豊・廉載鎬編、木鐸社、2004年)など。

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