『東アジアの国際分業と日本企業―新たな企業成長への展望』(有斐閣 2005年)
天野 倫文(あまの・ともふみ)(法政大学経営学部助教授)
<企業の目線で東アジアを見据える>
このたびは、大平正芳記念賞を賜り、誠にうれしく思います。アジア研究に携わる一研究者として、環太平洋連帯構想を掲げられた大平総理の功績に深く敬意を表するとともに、今回の受賞を大変光栄に存じます。平岩外四理事長、大平裕常務理事、渡邊昭夫委員長をはじめ、選考委員の先生方、財団関係者の皆様に心より御礼を申し上げます。
アジアの国際分業というテーマを進めるにあたった発端は、ちょうど10年前に恩師の伊丹敬之先生の薦めで、通産省の産業空洞化研究会に参加させて頂いたことです。当時は円高がピークに達し、中国の台頭が確実となり、国内産業の空洞化への危惧は深刻でした。この問題をどう考えればよいのかが当面の研究課題となりました。
しかし数年研究を進めていく中で、2つの研究の方向性が芽生えてきました。第1に、国内の問題を東アジア全体の産業発展の歴史や流れに位置づけて理解すること、第2に、経営の現場との対話を重んじ、企業の目線で東アジアを見据えることです。経営学を専門にしていることもあり、後者の点はとくに自らに課してきました。
調査研究の結果は示唆の富むものでした。成長するアジアに果敢に投資を行い、現地化を進めている企業は、それを梃子にして1回り大きな経営戦略を打ち出していました。そうした企業では、国内が空洞化するどころか、新たな比較優位分野の創出が進み、本社としての経営機能も強化されていくのです。そのような企業が力をつけることで、国内の産業構造調整も進みつつあるという見解に至りました。
同時に日本企業の課題も見えてきました。アジアを歩いていると、日本企業以上に現地に深くコミットし、揺るがぬ共存関係を築いている欧米企業の姿に遭遇します。この紐帯は予想以上に強いものです。大平総理が掲げられたように、アジアをアジアの中だけで捉えるのではなく、より広い視野から国際分業の体系を見ることが不可欠と感じております。今後もこの分野の研究に邁進していきたいと思います。
略歴
1973年大阪府生まれ。1996年一橋大学商学部卒業。2001年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。商学博士取得。2001年東洋大学経営学部講師。2004年法政大学経営学部助教授。現在に至る。1994~95年、米国カリフォルニア州立大学バークレイ校留学。専門は国際経営論・経営戦略論。
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