『現代中国の外交』(慶應義塾大学出版 2007年)
青山 瑠妙(あおやま・るみ)(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)
<今後も創造的破壊にチャレンジしたい>
このたびは、第24回大平正芳記念賞を賜り、大変光栄に存じます。
大平正芳記念賞運営委員会、選定委員会の先生方ならびに財団関係者の方々に心より御礼申し上げます。
「群盲、象を評す」ということわざがあります。大きな象を盲人が撫でて姿を想像しても触った部分によって千差万別のイメージが生まれます。全体像を考えずに一つの側面だけで全体を想像すると、極めて極端な「象」を描きかねません。中国のような大きな対象を研究する場合、群盲が象を評することのないよう、大局的な視点から中国の対外政策を浮かび上がらせ、分析する必要があると痛感しております。
中国においても先進諸国同様、外交政策は国内のダイナミズムを反映して大きく変化しています。中国は近年インターネット人口が急増するなど情報化が進展する一方、経済成長に伴い産業構造も急速に高度化しています。農業社会から工業社会へ、計画経済から市場経済へと経済社会が新たなステージへと転換しつつあり、こうした構造転換が中国外交の課題を規定しています。中国は政治・経済的に世界とのかかわりを深化させていますが、中国外交を理解するためには、内なるダイナミズムについても見極める必要があります。
こうした問題意識から、中国の内部の構造や組織にメスを入れ、どういう構造要因や組織のルールに基づいて中国外交が動いているのか、そしてリージョナル化とグローバル化との連動をとらえ中国がどのような外交戦略を構築しようとしているのか、動態的分析を試みようとしたのが拙著であります。
今後の中国外交を考えると、グローバル化、リージョナル化をはじめ、地球環境問題やエネルギー、国内の経済格差の解消や国家統合問題、など課題は山積しており、中国外交への関心はますます高まるものと考えます。
こうしたニーズに応えるために、また今回の栄えある賞に応えるためにも、今後は自分自身で構築してきた枠組みにとらわれず弛まざる創造的破壊を行いながら、さらに研鑽を積み、新たな学問空間の開拓にチャレンジし続けていきたいと存じます。
略歴
1999年、慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。法学博士。2005年~2006年、スタンフォード大学客員研究員。現在早稲田大学教育・総合科学学術院教授。専攻は現代中国外交。近著には、“Chinese Diplomacy in the Multimedia Age,” in Kazuko Mori & Kenichiro Hirano eds., A New East Asia: Toward a Regional Community (Singapore: National University of Singapore, 2007); 『中国の外交――自己認識と課題』(共著、山川出版社、2007)、『東アジア共同体の構築1 新たな地域形成』(共著、岩波書店、2007)など。