『太平洋島嶼国の憲法と政治文化
―フィジー1997年憲法とパシフィック・ウェイ』(成文道 2010年)
東 裕(苫小牧駒澤大学国際文化学部教授)
このたび、第27回大平正芳記念賞を賜り、誠に光栄に存じます。環太平洋地域、なかでも太平洋島嶼地域を対象とするオセアニア地域研究者にとって、最高の栄誉であり、何物にも代え難い喜びです。拙著を候補作としてご推薦いただき、審査の労をおとり頂いた運営・選定委員会の諸先生方、大平正芳記念財団の関係者の皆様方、そして故大平正芳首相に対し、心より深く感謝し御礼を申し上げます。
受賞作は、筆者のおよそ15年間にわたる太平洋島嶼地域研究の成果の中から、比較憲法学および政治学分野の研究論文を中心に一書に纏められたものです。対象は、広大な太平洋の海域に点在する12の独立国(現在は13か国)、極小島嶼国家群です。これら諸国の憲法における国家と個人の関係、人権と伝統的権利の関係、公共性の考え方、そしてその憲法の下で展開される政治とその根底にある政治文化”パシフィック・ウェイ”(太平洋流儀)の関係を、フィジー1997年憲法と同憲法下におけるフィジー政治の動向を事例として分析し、考察したものです。この成果を得るまでには、幾たびか南太平洋に足を運び、その気候風土や文化に触れ、現地の人々の法感覚、政治感覚をできるだけ共有するよう努めてきました。
わが国における太平洋島嶼地域研究は、主として文化人類学者によって担われてきました。その中にあって、社会科学系の太平洋島嶼地域研究が評価されたことは、ひとり筆者の喜びであるのみならず、後進の社会科学分野研究者の励みともなることでしょう。わが国もまた太平洋に位置する島嶼国家であり、その文化の基層には、太平洋島嶼国のそれと共通するものがあります。北米、アジア、豪州、南米と大陸を繋ぐ環太平洋の中に、もう一つ、島嶼を繋ぐ同心円があると感じています。この円をもっと鮮明に描くことが筆者の今後の研究課題の一つでもあります。
太平洋島嶼地域には、まだ数多くの研究課題が残されています。この受賞を契機に、今後いっそうこの地域の研究に精進し、微力ながら環太平洋構想推進の一助を担えればと気持ちを新たにしております。ありがとうございます。
略歴
1954年和歌山県生まれ。1978年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1980年早稲田大学大学院政治学研究科博士前期課程修了(政治学修士)。1988年早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学。その後、近畿大学、明治学院大学、群馬大学等の非常勤講師を経て、1994年社団法人日本ミクロネシア協会オセアニア研究所(現、太平洋諸島地域研究所)研究員(1996年より主任研究員)。1999年苫小牧駒澤大学国際文化学部助教授。2001年より苫小牧駒澤大学国際文化学部教授。