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第27回受賞作及び受賞者名

『盗賊のインド史
―帝国・国家・無法者(アウトロー)』
(有志舎 2010年)
竹中 千春(立教大学法学部教授)

このたびは、大平正芳記念賞を賜りまして、大変光栄に存じます。財団、運営・選定委員会の先生方に心からお礼を申し上げます。恩師の坂本義和先生、大学や学会の先輩や同僚の方々、ともに学んでくれた学生、いつも励ましてくれた友人や家族。『盗賊のインド史』を世に出してくださった有志舎の永滝様。深く感謝致します。
インド研究を始めたきっかけは、非暴力を唱えたマハートマ・ガンディーへの関心でした。彼を生んだ国に学びたい。しかし、留学先のインドは、暴力に溢れていました。カーストやジェンダーの差別、民族や宗教の対立、政府の弾圧。解放勢力も武力解放を謳う。失望しました。そういうとき、新聞のトップ記事を飾っていたのが、「盗賊の女王」、プーラン・デーヴィーです。首都の近くで女盗賊が跋扈している! 驚きました。
プーランは私とほぼ同世代の女性です。彼女はなぜ盗賊になったのか。ずっと気にかかっていましたが、ついに二〇〇〇─〇一年、国会議員となったプーランにインタビューし、彼女の村も訪ねました。そのすぐ後に、彼女は暗殺されました。
そのような、私なりの「プーラン伝」を核に、現代インドの歴史と政治を論じたのが本書です。盗賊とは誰か。盗賊はなぜ国家の敵となったか。近代国家と市場経済が社会を巻き込んでいく過程で、疎外され、古い社会を引きずる人々の中から、盗賊が登場し、民衆に喝采される。プーランも、そういう歴史の中で必死に生きた女性として描きました。
不思議の国インド、盗賊の世界への旅。研究者としての旅の物語を読んでいただき、栄えある賞までいただき、感無量です。南アジアにはまだまだ盗賊や武装勢力が跋扈していますが、プーランが国会議員になったように、暴力の矛先をおさめるしくみとして、民主主義の力も増しています。今や高度成長の波に乗ったインドは、日本にとってもアジア・太平洋地域における重要なパートナーになっています。そうしたインドの姿を捉える上で、本書も僅かながら貢献できれば嬉しく思います。ありがとうございました。

略歴
立教大学法学部教授(アジア政治論)。国際政治・南アジア研究・ジェンダー研究。東京大学法学部卒業、明治学院大学教授を経て2008年より現職。『世界はなぜ仲良くできないの?暴力の連鎖を解くために』(阪急コミュニケーションズ、2004年)、共編『講座現代アジア研究第2巻 市民社会』(アジア政経学会監修、慶應義塾大学出版会、2008年)、翻訳にR・グハ他『サバルタンの歴史―インド史の脱構築』(岩波書店、1998年)。日本国際政治学会、日本比較政治学会、アジア政経学会、南アジア学会、日本平和学会理事。

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