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第27回受賞作及び受賞者名

『歴史の桎梏を越えて―20世紀日中関係への新視点』
(千倉書房 2010年)
小林 道彦(北九州市立大学基盤教育センター教授)
中西 寛(京都大学大学院法学研究科教授)

このたび、第27回大平正芳記念賞特別賞をいただき、編者として誠に光栄に存じます。論文集という形式の本書に頂戴した栄誉は、13名の執筆者全員の喜びであり、編者として代表して、財団理事の皆様、運営・選考委員の皆様、刊行にあたりご尽力頂いた方々に改めて感謝申し上げます。
本書に収められた13編の論文はそれぞれを紹介することは紙幅が許さないところですので、ここでは編者として本書を編集するに至った趣旨を述べることにします。日本と中国との間でいわゆる「歴史認識」問題が主要な政治問題であり、両国間でしばしば論争を呼び起こしていることは周知の事です。こうした論争は、日本の中国に対する戦争責任や暴力行為の解釈に関して生じており、ほぼ同じような論点が繰り返し主張されているように見えます。20世紀の前半期の日中関係が不幸なものであったことには疑いをいれませんが、その歴史解釈をめぐって今日の日中関係が袋小路に陥ってしまうことは更なる不幸であり、その状況を「歴史の桎梏」と名づけました。
他方で、今日では20世紀の日中関係について多数の実証的で高い水準の研究が盛んとなっています。ただ、こうした研究は「歴史認識」として問題となるような大きな枠組みを論じるのではなく、より特定の個別的なテーマを対象としています。それは学術研究としては望ましい姿ではあるのですが、「歴史の桎梏」に対して先端的な研究が没交渉であることは残念です。そこで本書は、20世紀の全体を通じて、先端的な研究者による論文を集めることで、大上段に構えた「歴史認識」とは異なる、様々な歴史の渦やひだを浮かび上がらせようと試みました。20世紀の日中関係に関する統一的な視座を提示した訳ではありませんし、またそれを意図した訳でもありませんが、20世紀を通じて日本と中国がそれぞれの主体性をもって相互作用を営んできた姿を不十分ながらも示すことができたのではないかと自負しています。
実証的な歴史学的、政治学的研究の積み重ねによって日中関係の歴史に対する見方が深まり、かつ多様なものとなって、「歴史の桎梏」が克服される日が来るよう願いつつ、これからも研究を進めていきたいと思います。

小林 道彦 略歴
北九州市立大学基盤教育センター教授(2007年~)。1956年埼玉県生まれ。1979年中央大学文学部史学科卒業。1982年中央大学修士。1992年、北九州市立大学法学部専任講師。1998年教授。1999年京都大学博士(法学)。
著書『政党内閣の崩壊と満州事変』で、2009年度吉田茂賞受賞。

中西 寛 略歴
1985年京都大学法学部卒業。1987年京都大学大学院法学研究科修士課程修了。1988年~90年シカゴ大学歴史学部博士課程在籍。1991年京都大学法学部助教授。1994年~95年文部省在外研究員(イギリス、オーストラリア)。2002年から京都大学大学院法学研究科教授。(2006年~09年京都大学公共政策大学院教授に在籍)

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