『未完の平和?米中和解と朝鮮問題の変容、1969-1975年』(法政大学出版局 2010年)
李 東 俊(リ・ドンジュン) (高麗大学 アジア問題研究所 HK研究教授)
「未完の平和」から「平和の完成」へ
このたびは、伝統ある大平正芳記念賞の受賞の栄に浴し、身に余る光栄に存じます。貴財団および運営・選定委員会の委員の皆様方に心から御礼申し上げます。また拙著が日の目を見るまでには、わたくしの研究者としての歩みを一貫して支えてくださった恩師の横田正顕先生(東北大学法学研究科教授)をはじめ、多くの諸先生、諸先輩方のご指導を賜りました。皆様方の尽きせぬ御恩に最高の形で報いることできましたことは、無上の喜びであります。
拙著は米中和解期の朝鮮問題の歴史的再評価を試みた研究の産物であり、その大きな狙いは、1970年代の米中和解とそれに連動する形で展開した南北対話という二つの緊張緩和の相互作用の結果、朝鮮戦争以来の朝鮮半島分断のあり方が根本的に再編され、その基本属性が継続的に維持されている、という視座を示すことにありました。
1970年代当時、米中和解とその衝撃に抑え込まれる形での南北対話によって、朝鮮半島の分断のあり方は大きく変貌しました。「二つのコリア」が歴史上始めて当事者レベルで受容され、在韓米軍が安定力として再定義された結果、分断構造もまた再制度化されました。しかしその実態は、朝鮮戦争の戦後処理を等閑にする「未完の平和」であり、しかも分断の現状維持を望んだ米中の意図を色濃く反映する「埋め込まれた平和」に過ぎませんでした。これが、拙著を通じてわたくしが訴えたかったことの骨格であります。
顧みれば、常にわたくしの脳裏にあって、わたくしをこの研究に向かわせた動機とは、朝鮮戦争以来の朝鮮半島分断のあり方と、北朝鮮の核問題に悩まされる朝鮮半島の現状とに挟まれた知的空隙を埋めたいという切実な願望でありました。当初の気宇壮大な構想に比して、多くの紙幅を割いて明らかにできたことはほんのわずかであり、自らの力量不足への反省を禁じ得ません。しかしながら、今のわたくしの心をより強く捉えて離さないのは、朝鮮半島が、深刻な不安要素を抱えながら、「平和の完成」に向けての重大な岐路に再び立たされている現状への期待と懸念であります。
朝鮮半島問題に取り組む者にとって、学術研究と実践的知の結節点に生じる新たな想像力が、今ほど必要とされる時機はないのかも知れません。この確信が日増しに強まることを実感しつつ、わたくしは自らの研究生活を決定づけた分野において、今まで以上に精進を重ねる所存でございます。目の前に山積する課題が果てしなく多く、しかも複雑に入り組んでいることに慄然とするわたくしにとって、このたびの受賞は大きな励ましになり、初心に立ち返って、新たな研究意欲を奮い立たせる原動力になりました。改めて御礼申し上げます。
略歴
1969年韓国安東市生まれ。1987?1994年ソウル大学(文学、在学中に韓国陸軍服務)。1999?2002年カトリック大学修士(国際政治学)。2005?2008年東北大学博士(法学)。1994?2005年「韓国日報」記者。2003?2004年国際交流基金(Japan Foundation)研究フェロー。2009?2011年日本学術振興会外国人特別研究員を経て2011年4月より高麗大学・アジア問題研究所・HK研究教授。朝鮮問題を中心にした東アジア国際政治研究。博士論文で2009年第8回井植記念アジア太平洋研究賞受賞および2010年度アメリカ研究振興会より出版助成。