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第29回 受賞作及び受賞者名

『圧縮された産業発展-台湾ノートパソコン企業の成長メカニズム』(名古屋大学出版会 2012年)

川上 桃子(かわかみ・ももこ)(日本貿易振興機構 アジア経済研究所 海外調査員 在台北)

グローバルな産業内分業における後発国の成長

 このたびは,第29回大平正芳記念賞の栄誉にあずかり、大変光栄に存じます。財団関係者の方々、運営・選定委員の皆様方に、心より御礼申し上げます。また、本書の執筆にご協力くださったパソコン業界の方々、本書を出版へと導いてくださった名古屋大学出版会の方々、そして本研究の着想から完成までに要した長い年月を支えてくださった諸先生方と友人・家族に深く感謝いたします。
  本書は、台湾のノートパソコン産業の急激な発展の過程を、企業レベルの能力構築メカニズムに注目して描き出した研究です。1990年代半ばに低コストの下請生産の担い手として発展を開始した台湾のノートパソコン企業は、わずか10年足らずのあいだに驚異的な成長を遂げ、今日では、ノートパソコンの世界出荷台数の9割以上を生産するまでに発展しています。
  本書では、先進国企業との非対称な力関係の構図のなかに後から参入した台湾のパソコン企業の、学習者としての”したたかさ・しなやかさ”と、その背後にある企業レベルの創意工夫を明らかにすることを目指しました。多くの業界関係者の方がインタビュー調査に応じてくださったおかげで、台湾の受託生産企業が顧客からどん欲に学び、能力を高め,自らの力を外部に向けて発信するようになっていった過程を詳細に描き出すことができたのではないかと思います。
  本書ではまた、グローバルな産業内分業のなかの後発国の成長を考えるうえでの手がかりとなるような、汎用的な分析視角を提示することを試みました。「産業内分業の構図の把握→情報の流れの把握→後発国企業の学習戦略の把握」という本書のアプローチは、その試みの一環です。この試みがどの程度成功したかは定かではありませんが、今後は,さらなる事例分析を通じて、この視角の可能性を検証していきたいと思います。
  20年近く、台湾の産業発展を追いかけてきた私にとって、大平正芳記念賞の受賞は大きな喜びです。同時に、本書が完成したそばから新たな局面変化を経験しつつある台湾ノートパソコン産業のダイナミックな展開を見るにつけ、台湾の産業発展という研究テーマはつくづく手強い分析対象であると、身の引き締まる思いがいたします。今回の受賞を励みに、したたかでしなやかな学習者としての台湾企業をお手本としながら、さらに研究に精進してまいりたいと思います。

略歴
1968年生、宮城県仙台市出身。1991年 東京大学経済学部卒、同年アジア経済研究所入所。1995-1997年、同研究所海外派遣員として中華経済研究院(台北)にて在外研究。2008年 東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。2011年、同研究科より博士号取得。2012年3月より、アジア経済研究所海外調査員として、中央研究院社会学研究所(台北)にて在外研究中。主な研究分野は台湾を中心とする東アジアの産業発展と台湾の経済・社会。近年の主要編著はM. Kawakami and T. Sturgeon eds. The Dynamics of Local Learning in Global Value Chains: Experiences from East Asia, Palgrave Macmillan, 2011等。

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