インフォメーション

第26回受賞作及び受賞者名

 『軍政ビルマの権力構造―ネー・ウィン体制下の国家と軍隊 1962-1988』(京都大学学術出版会 2009年)

中西 嘉宏(なかにし・よしひろ)(日本貿易振興機構・アジア経済研究所 地域研究センター研究員)

<手探りの成果に思わぬ褒美>

 このたびは、大平正芳記念賞という大変栄誉ある賞をいただき、財団理事の皆様、運営・選定委員会の先生方には厚く御礼申し上げます。また、本書の出版までにお世話になったすべての方々にあらためて感謝いたします。
   受賞作はビルマ(ミャンマー)の政治史について論じたものです。この国では現在までおよそ50年間、軍事政権が続いています。ビルマでなぜこれほど長く軍事政権が続いているのか。この素朴な問いにひとつの答えを出そうとしたのが本書です。具体的には、社会主義の時代だった1962年から1988年までを対象に、ネー・ウィンという独裁者がどのように国軍将校団中心の権力構造を生みだしたのかを検討しています。そして、この時代の権力構造の変化が、現在まで続く軍政の基礎になっていると主張しました。
   ビルマ政治の研究は調査が難しいためにあまり進んでいません。振り返ってみると、研究をはじめた頃はそうした先行研究の少なさを気楽に感じていたものです。ところが、いざヤンゴンで調査をはじめると、先人が少ないがための苦労をいやというほど味わいました。道標となる研究も、批判に値する通説もなく、どこにどういった関係資料があるのか不明でした。そんななか手探りで調査を進めました。人づてに利用を許された国軍文書館で史料を筆写し、露天の古本商たちと仲良くなって関係書籍や流出資料を探してもらい、拒絶にめげることなく元政党幹部や元軍人たちに話を聞いてまわりました。
   社会科学の手法がどんどん洗練されていくなかで、私が行ったような作業は主流とは言えませんし、とても非効率的です。しかし、こうした作業がなければ、ビルマ政治は理解できないという確信がありました。それは、私のまわりにいた地域研究者たちが、同じような苦労をして本当に優れた仕事をしていたからです。また、現地調査でしかわからない感覚が少しずつ身についていったからでもあるでしょう。
   今回の受賞で、たとえ手探りであっても、ビルマと東南アジアを理解することに愚直に励んできた努力が決して無駄ではなかったと勇気づけられました。受賞者の名に恥じぬよう、今後も精進していきたいと思います。
   また、今回の受賞が、私同様に厳しい調査環境のなかで研究を続けている他の若手地域研究者にとっても励みになることを願ってやみません。  

略歴
1977年兵庫県生まれ。2001年東北大学法学部卒業。2007 年京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科修了。京都大学博士(地域研究)取得。2003年から2005年まで東南アジア教育省連携機関・歴史文化研究センター(SEAMEO-CHAT)(在ヤンゴン)客員研究員。京都大学東南アジア研究所非常勤研究員を経て,2008 年より日本貿易振興機構・アジア経済研究所 地域研究センター研究員。 

1

2 3 4 5 6
PAGE TOP