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第29回 受賞作及び受賞者名

『日本占領と宗教改革』(学術出版会 2012年)

岡崎 匡史(おかざき・まさふみ)(東洋大学国際共生社会研究センター研究助手)

マッカーサー元帥の日本キリスト教化政策の解明

 私の人生はまだ駆け出しですが、今日、名誉ある大平正芳記念賞特別賞を賜ることができたことは、眼がくらむような光栄であります。
  貴財団および運営・選定委員会の諸先生をはじめ、財団を支える関係者すべての皆様に深く感謝申し上げます。
  受賞の通知がきた時、「何かの間違いではないか」と疑いました。この本の出版後、大きな反響もなく、むしろ「黙殺」「無視」に近い状態でした。若さ特有の荒い文体、権威への挑戦、論述の粗さ、など批判される材料には事欠きませんが、大平正芳記念賞特別賞という栄誉を授かったことは、私にとって青天の霹靂でした。自信を持って学問の怖い世界へ入って行けます。「大平パスポート」をいただいた、気持ちでございます。
  「学術の灯を消さない」という強い信念のもと、英断を以て拙著『日本占領と宗教改革』の出版に踏み切った学術出版会が一番驚かれていることでしょう。深く感謝しております。
  ダグラス・マッカーサー元帥は、敗戦日本をキリスト教国にすることを夢みました。日本の大黒柱である天皇がキリスト教に帰依すれば、日本の「精神革命」が実行できる、と読んだのです。しかし、この目論みは失敗に終わります。拙著は、マッカーサー元帥の日本キリスト教化政策の解明を試みたものです。
  いみじくも、大平正芳首相は、戦後日本におけるクリスチャン首相の一人でもあります。1928(昭和3)年に高松高等商業学校(現・香川大学経済学部)に入学した大平は、キリスト教の伝道活動をしていた佐藤定吉(東北帝国大学教授)と出会います。この時、大平、18歳。「全東洋をキリストへ」という教理を掲げる佐藤は、「神道・儒教・武士道を東洋的旧約と認め、キリストの福音による新約日本の建立を念願す」という夢に燃えていました。若き青年であった大平は、佐藤の教えに感化され、「イエスの僕会」に入会して、翌年1929年の12月に洗礼を受けられました。
  マッカーサー元帥と大平首相は、キリスト教徒という点では同じですが、二人の描いた世界観は異なります。マッカーサー元帥は、敗戦国日本にキリスト教を布教させることを強引に実施しました。一方、「日本的基督教観」を持つ大平は、政治と宗教を峻別し、さらに高いレヴェルにまで昇華させ、「環太平洋連帯構想」を打ち出しました。現在の欧州同盟(EU)のような強固な連帯ではなく、アジア太平洋諸国の発展段階に合わせた「ゆるやかな連帯」を目指し、「人類社会全体の福祉と繁栄」を最大限に引きだそうとしたのです。
  大平首相の高遠な理念は、日本の外交政策だけに留まらず、アジア太平洋諸国の指針とも言えます。
  大平首相が永眠され、年月が過ぎ去りましたが、大平首相の足跡を追えば追うほど、その業績は計り知れないものがあります。大平正芳記念賞特別賞という名誉に押し潰されないためにも、夢と希望を以て今後も学問に励んでいきたいと決意を改めております。
  最後に、厳しくご指導して下さいました恩師の方々、そして小言も言わずにご飯を食べさせて下さいました両親に感謝いたしまします。
この度は、誠にありがとうございました。

略歴
1982年、埼玉県生まれ。2005年日本大学法学部卒業後、日本大学大学院総合科学研究科博士課程入学。在学中にサンディエゴ州立大学大学院政治学部留学、国際連合大学大学院、スタンフォード大学フーヴァー研究所で学ぶ。2010年、日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。北東アジア経済フォーラムYoung Leaders Program Fellow, 2007 & 2011、日本大学大学院総合科学研究科ポスト・ドクトラル・フェローを経て、現在、東洋大学国際共生社会研究センター研究助手。主要論文:”Chrysanthemum and Christianity: Education and Religion in Occupied Japan, 1945-1952,” Pacific Historical Review, Vol.79, No.3 (August 2010)

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