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第31回 受賞作及び受賞者名

『民主化のパラドックス-インドネシアにみるアジア政治の深層』(岩波書店 2013年)

本名 純(ほんな・じゅん)(立命館大学国際関係学部教授)

インドネシアにおける政治転換の力学を分析

このたびは、名誉ある大平正芳記念賞を賜り、大変光栄に存じます。財団の理事の皆さま、運営委員会と選定委員会の先生方、そして拙著の出版を支援して下さった方々に,心よりお礼申し上げます。
 受賞作は、「東南アジアの大国」インドネシアにおける政治転換の力学を分析するものです。同国は、30年に及ぶスハルト長期政権の下で、いわゆる開発独裁のモデルを築きましたが、1997/8年のアジア通貨危機の打撃を受けて政権は崩壊し、以後17年にわたって政治の民主化を進めてきました。この政治の大改革を見守ってきた国際社会は、当初、分離独立運動の拡大による治安の悪化や、民主選挙の混乱などによる政治の不安定化を大いに心配していましたが、その懸念も徐々に薄まり、今では東南アジアで最も安定した民主主義国であると称賛しています。その民主化の定着と伴に外国投資も回復し、国家経済も飛躍的に成長して、東南アジア唯一のG20加盟国になりました。インドネシアの「民主化の成功」の「秘訣」は何か。拙著はその問いに、ひとつの答えを示すものです。
 過去20年の間、私は政治権力の中枢にいる人たちへのインタビューを積み重ねてきました。彼らの権力闘争の実態を洞察することで、民主化という政治変動の本質をリアルに理解したかったからです。そこから導かれた結論は、民主化が進むほど、旧体制の非民主的な勢力の政治基盤も強くなっていくという逆説(パラドックス)でした。さらに言えば、そういう守旧派勢力の既得権益が政治システムから排除されずに包摂され続けてきたために、民主化は彼らに邪魔されずに延命し、「安定」「定着」していくわけで、このダークな勢力の温存こそが、実は「民主化の成功」の秘訣であったと結論付けました。当然その成功のコストは「質の悪い民主主義」の定着です。
 それを考えると、国際社会がインドネシアの「民主化の成功」を無自覚に必要以上に称賛する今のトレンドに危うさを感じます。そのメッセージを発したいがために書いた本でもあります。その意味で、このたびの受賞は大きな励みになりました。今後もインドネシア政治の醍醐味を伝えていきたいと思います。 

略歴
1992年テンプル大学教養学部卒業、1994年国際基督教大学大学院行政学研究科卒業、1999年オーストラリア国立大学アジア太平洋研究所より博士号(政治学・国際関係学)取得。2000年から立命館大学国際関係学部に赴任。インドネシア戦略国際問題研究所客員研究員、在インドネシアJICA専門家、JICA研究所客員研究員、インドネシア大学社会政治学部連携教授など歴任。著書に”Inside the Democrat Party: Power, Politics and Conflict in Indonesia’s Presidential Party,” South East Asia Research (Vol.20, No.4, December 2012, pp.473-490)、Military Politics and Democratization in Indonesia (London: Routledge, 2003)など。

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