『記憶の場としての国連記念公園-戦争墓地の文化遺産化』
李 貞善
(東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究室博士課程)
この度は、第36回環太平洋学術助成費の受賞対象にご選出いただき、大変光栄に存じます。この場をお借りして、大平正芳記念財団の運営・選定委員会の先生方と関係者の皆様に、深く感謝申し上げます。
「記憶の場としての国連記念公園-戦争墓地の文化遺産化」は、2022年度中に東京大学大学院に提出する予定の博士論文の延長線上にある研究です。本研究は、朝鮮戦争の墓地である国連記念公園が、11カ国の戦争死者2,314人が奉安されている記憶の場として、21世紀の国際社会の連帯に貢献しうることを導き出したものです。
国際連合の誕生後まもなく朝鮮戦争が勃発すると、国連総会の決議の下、22カ国からなる国連軍が創設されました。1951年に国連軍司令部が朝鮮半島各地の臨時墓地を統合して造成した国連墓地(国連記念公園の前身)は、国連・韓国間の協定に基づいて世界唯一の国連の公式墓地という位置づけを獲得したものの、停戦以来70年近く国際社会から切り離されていました。
上記の背景を踏まえて本研究では、国連軍参戦国の多岐にわたるアーカイブ史料の分析と、元国連軍兵士および関係者への聞き取り調査、参与観察を通して、この公園をめぐる記憶が多様な利害関係者にどのように伝承されているかを検証しました。これらの分析を基に、多文化共生社会を体現する生きた文化遺産としてのこの公園の在り方を展望しました。 その結果、国連記念公園が朝鮮戦争史のみならず、日本を含む環太平洋地域や国連の歴史、人類学、そして国際政治の力学が交差する結節点として、重要な地位を占めているということを最初に具体的に解明することができました。
設立から71年が経った今もなお国連記念公園に関する史料の入手と分析は困難な状況にありますが、私はこの論文を通して、学術研究と環太平洋地域を含む国際社会をつなぐ架け橋としての社会的使命を果たすべく努力する所存です。平素より温かいご助言とご指導を賜りました指導教員の松田陽先生をはじめ、先生方、関係者の方々に改めて心より御礼申し上げます。
略歴
2003年に韓国・高麗大学を卒業した後、同年から2014年まで韓国電力公社で勤務しながら2008年に早稲田大学大学院で国際経営学修士課程を修了(海外委託教育対象)。2015年に文部科学省国費奨学生として来日して以来、東京大学大学院人文社会系研究科の文化資源学研究室で研究生と修士課程を経て、博士課程在学中。2021年に渥美国際交流財団奨学生に選定された後、博士論文を基にした韓国放送公社(KBS)の特集ドキュメンタリー「記憶の地、国連墓地」の学術監修を担当。