『NETWORKED: Business and Politics inDecentralizing Indonesia 1998ー2004』
(京都大学学術出版会 2018年)
Wahyu Prasetyawan
(シャリフ・ヒダヤツッラ・イスラミック・国立大学教授)
大平正芳記念賞を受賞できて大変光栄に思います。財団の理事の皆様と選考委員会に心より感謝申し上げます。
インドネシアの政治経済に関する従来の評論とは異なり、著書「ネットワーク: インドネシアの地方分権におけるビジネスと政治、1998-2004年」では中央政府と地方自治体の政治家間のネットワーク、繋がりが、1998年に「新秩序」政府が崩壊した後、地方分権が進むインドネシアおいては、ますます顕著な役割を果たしていると論じています。この本では、政治的ネットワークについてと、それらが特定の機関でどのように規制され、運用されているかを説明しています。この本は、なぜインドネシアの政治経済がネットワーク分析の枠組みでより良く説明されるのか、問います。
インドネシアの政治についての従来の評論では、政治家間の繋がりという、重要な現象を見落としています。1998年にインドネシアでスハルトが失脚した後、B.J. ハビビーの新政府は、中央政府と地方自治体の関係を劇的に変える地方分権
政策を導入しました。
地方分権の下で、地方自治体は、天然資源の管理とこれらの資源からの収益のより公平な配分をめぐって、中央政府との間で官僚、政治家による対決に乗り出しました。地方のエリート達は、経済・政治機関の形成へのより大きな関与を要求したのです。
地方分権は、過去30年間のインドネシアで最も重要な政治経済発展の一つです。この本では中央政府、地方自治体、多国籍企業をまきこんだ根深い政治的対立と駆け引き」の3つのケース( 東カリマンタン、西スマトラ、リアウの州) を検討します。
この本は、インドネシアの広大な天然資源を管理し、制御するための競争がもはや国家レベルの関係者に限定されず、地方レベルだけにも制限されないことを示しています。この研究は、天然資源の管理をめぐる中央政府との紛争において地方の活動主体が深く関わった結果、国家政治経済の構造が変化したことを明らかにします。これらの変化は、天然資源収益の配分の新しいパターンを意味し、インドネシアにおける民主的政治と政治形態の進化を示唆しています。
この授賞によって、政治経済とネットワーク、そしてそれらが地域の他の国々とどのように関わるかについて、さらなる研究に取り組むよう、大いに励まされます。この研究を通じて、ネットワークの分析解明への理解が深まることにより、協力が促進され、環太平洋地域の強靭な一体感の形成に寄与することを期待しています。
最後になりますが、恩師である白石隆先生、同僚、出版社、友人、家族、私に対して様々な支援と励ましを与えてくれたインドネシアの皆さんに感謝します。
略歴
シャリフ・ヒダヤツッラ・イスラミック・国立大学(Syarif Hidayatullah Islamic State University(UIN))教授。2007年から、春期に政策研究大学院大学(GRIPS (National Graduate Institute for Policy Studies))で講義中。シャリフ・ヒダヤツッ
ラ・イスラミック・国立大学(Syarif Hidayatullah Islamic State University (UIN))で宗教心理学の学位取得。リーズ大学(Leeds University)で開発学の修士取得、京都大学で政治経済学の博士取得。インドネシアの政治経済に関する様々なジャーナル記事や学術誌を出版。アイデンティティ政治を中心にした政治経済、鉱業、経済成長、民主化に関する研究に従事。