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第36回受賞作及び受賞者名

『幸運を探すフィリピンの移民たち―冒険・犠牲・祝福の民族誌』
(明石書店 2019年)
細田 尚美
(長崎大学多文化社会学部准教授)
 このたびは、大変名誉な大平正芳記念賞をいただき、誠に光栄に存じます。
 私は、世界各地に働きに出ているフィリピンの人たちの「移動すること」に対する思いをより深く知りたいという気持ちから博士論文の研究を始め、それが本書の基となりまし
た。フィリピンの移民現象は経済格差、強固な家族ネットワーク、高い英語力などといった要因で説明される傾向があります。そうした外から見て分かりやすい要因だけでなく、かれらを外界へと突き動かす、地域の文化的な原動力のようなものがあれば、それは何かという視点に立って、フィリピン移民の生きる日常の世界を探っていきました。そうして
いるうちに、かれらは、本書のタイトルになっている「幸運」を探しているのではないかという考えが浮かびました。本書ではこの考えを軸に、フィリピン中部のサマール島にある一農漁村とその村のマニラ分村を主たるフィールドとして、地域の歴史、生業、空間認識、ライフコース、信仰実践、親族関係、世代や階層の差などの側面と、それらが相互に関連している様子を丹念に描きました。本書を通じて、読者の方々がフィリピンを含む世界各国の移民の人たちが生きる世界に関心を持ち、移民の方々の何気ない一言や行いの背景を理解したいと思うきっかけになれば幸いと考えています。
 世界では現在、国境を越えた人の動きが年々加速する一方、受け入れ国側では移民・難民の排斥の風潮が高まりをみせる気配があります。このような時代に、太平洋圏の協力関係強化を提唱した大平正芳元首相の記念賞を受けたことは望外の喜びです。拙著を選んでくださった貴財団の選定委員の皆様、ならびに関係者の皆様、さらに本書が出版されるまでの長い間にお力添えをくださった全ての方々に深く感謝申し上げます。このたびの受賞を励みとし、今後さらにフィリピン研究ならびに移民研究の発展に寄与できればと思います。

略歴
1991年上智大学比較文化学部卒業、1994年カナダ・クィーンズ大学大学院政治学研究科修士課程修了。日刊マニラ新聞記者、日本学術振興会特別研究員を経て、2007年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程修了。博士(東南アジア地域研究)。香川大学インターナショナルオフィス講師、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科助教を経て、2019年より現職。主な編著書に『湾岸アラブ諸国の移民労働者?「多外国人国家」の出現と生活実態』(明石書店、2014)等。

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