『ルポ・トランプ王国―もう一つのアメリカを行く』(岩波新書 2018年)
『ルポ・トランプ王国2―ラストベルト再訪』(岩波新書 2019年)
金成 隆一
(朝日新聞社経済部記者)
優れた学術研究の著作に混じって、大平正芳記念賞特別賞を賜り、光栄に存じます。運営委員、選定委員、財団関係者の皆様に御礼申し上げます。また、アメリカ取材の機会を与えてくれた朝日新聞社、書籍の執筆機会を与えてくれた岩波書店の皆様にも感謝いたします。
受賞作はいずれも、米大統領トランプや上院議員サンダースら「アウトサイダー」に投票した人々への取材を通して、米社会の現在地を伝えようと試みた作品です。取材は2015―19年の約3年半です。
「日本の新聞記者がここで何してるの?」「冗談でしょ? マンハッタンから車で来たの?」「オレの高卒後の人生に興味があるって?」「トランプ支持の理由を聞きたい? オレに?」
取材相手の反応はこんな具合です。多くは喜んでくれていました。私が録音機を回し、ノートも広げると、「彼は本気だ」と伝わるのでしょう。まじめに語ってくれました。自らの境遇や思いを語ることに慣れていない人々。脱線を繰り返しながら取材が2時間を超えたことも少なくありません。米国で読まれることもない海外記者を相手に丁寧に応じてくれました。感謝するばかりです。
主な取材の舞台は、鉄鋼や石炭などの主要産業が廃れた「ラストベルト」と「アパラチア地方」。ダイナーやバー、選挙集会で居合わせた人々に声を掛けました。自分たちが暮らすのは「飛行機で通過される州(flyover states)」という表現を繰り返し聞きました。グローバル化が進む中で、海外も含めて都市間の移動は活発なようだけど、自分たちの町には誰も来ない、見向きもされない。そんなニュアンスです。
記者16?19年目の作品です。これまでも市井の人々を通して時代を描くことを試みてきました。静岡では日系南米人の労働者。大阪では長距離トラック運転手、ホストクラブに通う少女、無料オンライン講座で学んでチャンスをつかむ人々、中年ひきこもりの子と同居する親。同じ手法で臨んだ米国取材でした。
日々のルーティンとは別に、自分で中長期のテーマを設定し、少しずつ当事者取材を深める手法が認められたと勝手に励まされております。今後も続けます。
略歴
1976年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒、2000年、朝日新聞社入社。神戸支局、静岡支局、大阪社会部、米ハーバード大学日米関係プログラム研究員、国際報道部、ニューヨーク特派員を経て、経済部記者。教育担当時代に第21回坂田記念ジャーナリズム賞を、特派員時代に2018年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
著書『記者、ラストベルトに住む─トランプ王国、冷めぬ熱狂』(朝日新聞出版)、『ルポ MOOC革命─無料オンライン授業の衝撃』(岩波書店)など。