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第37回受賞作及び受賞者名

『移民と日本社会 データで読み解く実態と将来像』
(中公新書、中央公論新社 2020年)
永吉 希久子
(東京大学社会科学研究所准教授)
 このたびは栄誉ある賞をいただき、誠に光栄に存じます。大平正芳記念財団の皆様、選考委員会の先生方、本書の執筆にあたり、貴重な助言やサポートをくださった皆様に心よりお礼申し上げます。この本を書くきっかけは、客観的なデータに基づいた形で移民について考えるための本を書いてほしいという、中央公論新社の担当者からのお声がけでした。執筆の機会をいただいただけでなく、なかなか出来上がらない原稿を粘り強く待ち、度重なる修正に対応し、完成まで導いてくださった中央公論新社の皆様に、感謝申し上げます。
 拙著『移民と日本社会』は、移民の受け入れが社会にもたらす影響について、国内外の研究成果をもとに論じたものです。したがって、今回の賞は私に対してというよりも、そうした成果を、統計データの精緻な分析や丹念なフィールドワークを通じて着実に積み上げてこられた、多くの先達の皆様に対して贈られたものだと思います。
 拙著では「移民が社会にもたらす影響」について、経済的影響をはじめ、社会的影響、統合政策による介入の影響、長期的影響まで、多面的に取りあげました。各章で紹介する様々な研究成果が示しているのは、「移民がもたらす」経済的・社会的影響の在り方は、政府や企業、地域社会が移民をどのように処遇するのかによって異なるということです。劣悪な労働環境に置かれた技能実習生が「失踪」する、というように、受け入れ社会の側が行った処遇が移民の行動に影響を与えているならば、その帰結をもたらしたのは、受け入れ社会の側だともいえます。だからこそ、「移民問題」として語られるものは、「移民の問題」なのではなく、受け入れ社会のすべての人が当事者となる「社会問題」だといえます。
 日本はすでに出生数が死亡数を下回る自然減の段階に入っており、移民の受け入れと統合に対する国民的な議論が求められています。いただいた賞に恥じぬよう、今後も研究を続けていきたいと思います。

略歴
 2007年大阪大学人間科学研究科博士前期課程を修了。2010年同研究科修了、博士(人間科学)。追手門学院大学非常勤講師、ウメオ大学客員研究員を経て、2011年に東北大学文学研究科准教授に着任。2020年より現職。専門は社会学で、移民の社会統合とホスト社会住民の対移民感情について、社会調査データを用いた計量研究を行っている。主著に『日本人は右傾化したのか』(共著、勁草書房、2019年)、『移民の社会統合』(編著、明石書店、2021年)。

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