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第39大平正芳記念賞受賞者

『南シナ海問題の構図-中越紛争から多国間対立へ』(名古屋大学出版会、2022年)

庄司 智孝
(防衛研究所地域研究部長)
このたびは、大平正芳記念賞という栄誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。財団の関係者の方々と選考委員の先生方に対し、貴重なお時間を割いて拙書をご検討いた
だいたことに心より感謝申し上げます。
本書は、南シナ海問題をテーマとしています。この問題は、現在米中対立の焦点になっていますが、そもそもは南シナ海の海域や島々をめぐる、東南アジア諸国と中国、そして台湾の間の領有権争いです。現状、米中対立がクローズアップされることで東南アジアの存在がかすんでしまっていますが、問題の歴史的経緯と端緒、そして私が専門とするベトナムの対応策を学術的にとらえるため、自らの学識を総動員してこの本を書き上げました。私の狙いがどの程度実現したか、読者の方々の判断にゆだねる部分も大きいかとは思いますが、南シナ海問題の歴史をとらえて概括し、1 つの見方を提示することには成功したのではないかと考えています。南シナ海問題は現在も続いており、かつますます複雑化しており、解決の展望は見えていませんが、そもそもこれはどういう問題なのかについて学術書としてしっかりと残しておく、という務めは果たせたのではないかと自負しています。現在進行形の安全保障問題を学術的に扱うことには固有の難しさがありましたが、何とか実現することができました。そこにはさまざまな人からの助けがありました。
本書は、大学教員である妻の支援なくして完成させることはできませんでした。また職場の同僚や国内外の研究仲間との議論によって、多くの貴重な示唆を受け、南シナ海問題の考察を深めることができました。
名古屋大学出版会の三木信吾氏への謝意は言葉では尽くせないほどです。氏は、メールで初めて連絡した時から本書のテーマに関心を示し、本の完成までじっくりとおつきあい下さいました。また筆者に耳の痛いコメントも折に触れ率直に伝えていただきました。三木氏のご支援なくして、本書を世に問うことはできませんでした。心より御礼申し上げます。
この度の受賞を大いなる励みとし、専門性を磨きつつ、またより広い視野と関心を持ちながら、今後とも研究に精進してまいります。ありがとうございました。

略歴
東京大学教養学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。2002年防衛研究所入所、2020年より現職。専門はベトナムを中心とする東南アジアの安全保障と国際関係。最近の業績として「ASEAN政治安全保障共同体――多国間協力枠組みの発展と課題」(『安全保障戦略研究』第2巻第2号)、「ベトナムにとっての中国――共産党、『一帯一路』、そして南シナ海」(竹中治堅編著『「強国」中国と対峙するインド太平洋諸国』千倉書房)など。

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