『在日フィリピン人社会―1980~2020年代の結婚移民と日系人』(名古屋大学出版会 2024年)
高畑 幸(静岡県立大学国際関係学部教授)
このたびは、伝統ある大平正芳記念賞をいただき、大変光栄に存じます。財団関係者の皆様、選考委員の先生方に厚くお礼申し上げます。また、出版の機会を下さった名古屋大学出版会、編集者の皆様、これまでご指導下さった先生方、そして研究にご協力をいただいた多くの皆様に感謝申し上げます。
現在、在日フィリピン人は約34万人にのぼります。戦前・戦後を通じて、日本とフィリピンの間では人の往来が活発に行われてきました。しかし、南米の日系人と比較するとフィリピン日系人に関する研究は少なく、結婚移民に関する研究はあるものの、来日から定住、高齢化までを見渡す研究はまだ少ないのが現状です。
本書では「在日フィリピン人とは、どのような人たちか」「彼女ら/彼らはいかにして日本社会の一部となってきたか」を明らかにすることを目的として、結婚移民と日系人の来日の経緯、労働、定住、子どもたち、地域社会への参加、そして高齢化を描きました。そのリアルな姿と喜怒哀楽を、インタビューから得た「語り」によって読者に感じていただくことを試みました。また、在日フィリピン人社会は世界に広がるフィリピン人ネットワークの一部であり、各国にいる親族との相互扶助等を通じて彼女ら/彼らが国境を超える生活世界を持つことも、お伝えしたかった点です。「移動と共同性の生存戦略」の実践が、在日フィリピン人を支えています。
近年は、結婚移民も日系人も、日本生まれの子どもたちが社会で活躍し、新たな家族を作る一方、その親たちはここで静かな老後を迎えようとしています。ご存じのとおり、現在、日本では外国人人口が急増しています。「定住した外国人労働者」の先駆であるフィリピン人の過去40年の歩みが、今後のさらなる外国人の定住、家族の形成、子育てと高齢化を考える上での示唆となれば幸いです。この受賞を励みとし、身を引き締めて今後も研究に取り組んで参ります。ありがとうございました。
略歴
1969年大阪府生まれ。1994年、大阪外国語大学大学院外国語学研究科修士課程修了、2001年に大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程(社会学専攻)修了。2006年に博士(文学)。
日本学術振興会特別研究員(PD)、広島国際学院大学現代社会学部准教授を経て2011年に静岡県立大学国際関係学部准教授、2018年から同大学にて教授。専門分野は社会学、国際移動研究、在日外国人研究(特に在日フィリピン人)、地域社会の多文化共生。フィリピン語の通訳者としても活動している。