『Charting America’s Cold War Waters in East Asia-Sovereignty, Local Interests, and International Security』(Cambridge University Press 2024年)
陳 冠任(Kuan-Jen “KJ” Chen(台湾中央研究院近代史研究所助研究員)
この度、名誉ある大平正芳記念賞を頂きまして、大変光栄です。この賞を授与してくださった大平正芳記念財団に心より感謝申し上げます。拙著が故大平正芳総理が提唱した「環太平洋連帯構想」に貢献できることを大変嬉しく思っております。またこの場をお借りして、私の家族、そして拙著の草稿を読んでくださったヨーロッパ、北米、日本、韓国、台湾の同僚たち、に感謝の言葉を述べたいと思います。彼らの貴重なコメントのおかげで、私の主張がより広い聴衆へと開かれるものになりました。こうした同僚たちと共に未知の水域を航行する経験は、本当に素晴らしいものでした。
私が近代中国の漁業権について修士論文を執筆したとき、海洋空間が特別な歴史的プラットフォームとして機能することに気付きました。しかし、同時に、海洋空間を研究することでどのような独自の視点が得られるのかという疑問を持ち、少し迷うこともありました。この問題に答えるために、私は自分の研究範囲を冷戦時代まで広げました。その後、ケンブリッジ大学の博士課程で学び、博士号取得後はケンブリッジ、コペンハーゲンで働く機会を頂けました。現在は台北にある中央研究院で勤めています。そして、2024年には、ついにケンブリッジ大学出版会から拙著が出版されました。それは、本当に素晴らしい旅路でした!
拙著は、二つの相互に関連する問題意識を中心にしております。一つ目は、東アジアの政治・軍事的状況の変化に応じて、海洋空間がどのように進化したのかというものです。二つ目は、戦後アメリカの海洋政策と国際的安全保障問題を形作る上で、地域の主権や利益が果たした役割です。拙著では、東アジアの海洋を統合的な国際共同体として考察することで以前は知られていなかった歴史的なストーリーを通して、冷戦期の東アジアの動態を形作った主権、地域の利益、そしてアメリカの国家的および国際的安全保障への懸念を明らかにしました。アメリカの国際海洋政策は、東アジア地域におけるアメリカの覇権が多面的であったことを明らかにします。ソビエト連邦や中国共産党と対峙していたアメリカは、戦後の東アジアにおける海洋政策を策定する際に、安全保障に関しては妥協しませんでした。それでも拙著は、東アジアの各国間の関係がアメリカの海洋政策にも影響を与えたことを主張しています。これらの妥協は、東アジアにおける「ハブ・アンド・スポーク」システムで同盟関係を管理するアメリカの戦略において、重要な側面を成していました。
最後に、改めまして大平正芳記念財団に感謝申し上げます。若手学者として、この名誉ある賞によってこれまでの学問的業績を認めて頂けましたが、また同時に今後も一層努力し続けなければならないという決意を新たにします。なぜなら、未知の知識を探求する道が最終的にどこへ辿り着くのかは誰にも分からないからです。
略歴
1985年台湾台北生まれ。台湾中央研究院近代史研究所助研究員(Assistant Professorに相当)。ケンブリッジ大学で歴史学の博士号を取得後、ケンブリッジ大学、コペンハーゲン大学を経て現職。専門は冷戦史、アメリカの外交政策、現代東アジア史。研究成果は、『The Journal of Military History』、『Cold War History』、および『The Journal of American-East Asian Relations』などに掲載されている。