9つの研究グループ報告書要約文

田園都市構想研究グループ

序章 歴史的回顧と展望

一、田園都市に関する最初の提案
二、明治期の田園都市構想
三、二十一世紀への展望

第一章 田園都市国家の理念

一、構想の基本性格―二十一世紀へ向けての国づくり―
(1) 二十一世紀を二〇年後に控えて、日本はいま、新しい国づくり、まちづくり、むらづくりに本格的に取り組むべき時代を迎えている。
(2) 都市に田園のゆとりを、田園に都市の活力をもたらし、両者の活発で安定した交流を促し、地域社会と世界を結ぶ、自由で、平和な、開かれた社会、そうした国づくりをめざす構想を、われわれは「田園都市国家構想」と呼ぶ。

二、田園都市国家建設の前提条件

三、田園都市国家建設の手法―伝統と創造―
(1) われわれの構想する田園都市国家は、十九世紀末から二十世紀初頭にかけて西欧諸国において構想され、実験された田園都市モデルの理念や経験に学びつつも、その後の人類の欲求の高度化、多様化とこれに応える科学技術の進展、数々の歴史的経験を踏まえ、日本文化の特質を生かしつつ、脱工業文明への転換に対応する創造的なものでなければならない。
(2) それは、かつての農業社会時代にみられたような狭い、閉鎖的な地域主義への回帰をめざすものではなく、人問の移動への欲求や高度の選択の自由と多様性を保証する、広域的な観点に立った、開かれた新しい地域主義をめざすものである。
(3) 中央・地方を通じ政府は、多様な自発的創造力を尊重し、優れた経験の全国的な交流を促進するなど、その誘導に努め、いやしくも画一主義によって、このような自発的な創意工夫を妨げるようなことがあってはならない。

四、田園都市国家への多様な試み

第二章 田園都市国家の構造

一、多極重層構造の田園都市国家
(1) これから三〇年後、五〇年後の二十一世紀初頭までには、日本の国土の上に、近代化・産業化の成果である自由と平等、物質的豊かさと便利さとともに、精神的・文化的豊かさを享受し、人間と自然の調和、人と人との心の触れ合いのある、総数二〇〇~三〇前後の個性豊かな活力ある地域社会が相互に交流し、多様性のなかで、調和のとれたネット・ワークを形成することとなろう。あるいは、その輪郭が、かなりはっきりしてきているであろう。
(2) この新しい地域社会を、われわれは、「田園都市圏」と呼ぶ。それは、現在進められている「定住圏」、「地方生活圏」、「広域市町村圏」、「文化活動圏」のようないわゆる「行政レベルの圏域」を意味するものではない。それは、国が進めている諸々の圏域行政のなかから、それぞれの地域の自主的選択により、三〇年、五〇年、一〇〇年という歳月のなかで、自然に形成されてくるであろう新しい地域社会を意味している。そこでは、伝統的な都市対農村の対立は消滅し、都市と農村は新たなる共存と調和、相互依存の姿を示していることであろう。
(3) 二十一世紀における日本の国家社会には、緑豊かに再編成された国の首都である東京をはじめ、大阪、名古屋の多核型「大都市圏」を大きな中心とし、伝統と新しい文化に彩られ、制御された高次中枢管理機能をもつ人口一〇〇万人程度の都市が、複数の広域地方圏にまたがる「ブロック中枢都市」となり、それらを地域的・機能的にとりまいて豊かに発展する人口三〇~五〇万人程度の「広域中核都市」が存在しているであろう。さらに、それらを、充実した都市機能をもつ人口一〇~三〇万人程度の「地域中核都市」を中心に、自然との調和のなかに美しい都市的生活環境の整備された人口五~一〇万人程度の「地方中小都市」および「農山漁村」が有機的に一体となり、活力ある多様な「田園都市圏」を形成し、衛星のようにめぐって、日本の国土全体の上に「多極重層」のネット・ワークをもって、「田園都市国家」が形成されているであろう。
なお、田園都市国家は、大都市圏もブロック中枢都市もすべてを含めて、日本全土のうえに、自然と調和し、活力と潤いのある田園都市圏のネット・ワークの形成をめざすものであるが、便宜上、地域中核都市を核として形成される地域社会を、狭義において「田園都市圏」と呼ぶこととしたい。

二、田園都市圏に発展する農山漁村
「都市に田園のゆとりを、田園に都市の活力を」もたらすことを目的とする「田園都市圏」は、その中核となる地方都市と農山漁村が融和し一体となることによって完成する。

三、田園都市圏の中核となる地方都市
(1) 調和のとれたネット・ワークの形成
(2) 地域の自主性と多様性の尊重 (3)
「コンクール方式」によるまちづくり
地域の自主性を尊重し、地域が、自らの創意と工夫によって、その地域の特性を生かし、ニーズにもっとも適したアイデアを競い合い、国としても、そのなかの優れたプランに補助金を交付する、「コンクール方式」による予算配分を行うのが適当である。
(4) 人口移動を前提とした地域社会
(5) 各地方都市に期待される未来像
① 「地方中小都市」は、田園都市圏のなかにあって、「地域中核都市」との有機的関連を保ちつつ、田園都市圏の発展を図ることが期待されている都市で、現在人口五万人程度以下の都市が多い。
② 「地域中核都市」は、現在の県域より狭い「田園都市圏」の中核となることが期待される都市であり、現在人口はおおむね五万人以上のものが多い。
③ 「広域中核都市」は、現在の県域に相当する広域地方圏の中核都市で、大部分の県庁所在地やこれらに匹敵する都市であり、現在人口は二〇万人以上のところが多い。
④ 「ブロック中枢都市」は、全国的な交通通信ネット・ワークの結節点であり、高次の中枢管理機能の集積をもち、複数の広域地方圏にまたがるブロック地方圏の中心としての機能を果たす都市である。

四、田園都市国家における大都市圏の再生
(1) 「大都市」は、そこに生まれそこに住む人々にとっては、「ふるさと」を感じられるような、潤いのあるみずみずしい人間関係が脈うっている、帰属意識のある地域社会でなければならない。と同時に、政治、経済、文化などの諸機能が集中している「大都市」は、地方から出てきてそこを利用しようとする人々にとっては、いわばギリシャ時代の「アゴラ」のような、みんなが集る「共通の広場」としての性格をもつ。このように、「大都市」は、「ふるさと」と「共通の広場」としての二つの性格をもっており、大都市についての政策を進める場合にも、この二つの側面を十分に考えなければならない。
(2) オープン・スペースの開発  大都市圏を、そこに住む人々にとって「ふるさと」としての愛着をもち、「住みよいまち」とするためには、大都市のなかに「わがまち」と意識されるような地域社会づくりをめざすとともに、「生活の安全を確保」し、「生活に自然を取り戻す」ことが必要である。そのためには、大都市に際限なく拡大した市街地に都市空間としての区切りをつけつつ、大都市の思い切った緑地化と高度化を図る「緑の都市開発」を行うなど、強力に政策を展開し、誘導していかなければならない。
大都市圏においては、日照権などいろいろな私権についても、制約を受けざるをえない。緑豊かなオープン・スペースを開発し、高層住宅の建設を進めるとともに、将来にわたってもオープン・スペースとして確保するためには、その区画について、住宅建設敷地とオープン・スペースとを総合した土地についての「総合土地区分所有権」制度の新設を図ることが必要であろう。
さらに、大都市中心部においては、例えばイギリスに例をみるように、日本も使用権を公共の目的から強く制約する方向で、土地の所有権と使用権との分離を検討する必要がある。大都市中心部における低層住宅についての措置や、公共性の強い地域における土地収用の積極的発動の方法についても、検討する必要があろう。
(3)  多核型大都市構造への転換
都心部への一極依存型構造から、長期的には都市機能をいくつかの「核」に分散配置し、それに対応して居住地が形成される「多核型都市構造」の形成へ誘導する。東京、大阪、名古屋それぞれの大都市圏域で、ある程度の「核」となるような都市の経済、文化などの都市機能を充実する。
① 「東京圏」は、二十一世紀においても、世界に対し日本を代表する都市であろうから、政治・経済・社会・文化面の中心的機能が十分に発揮できるよう整備を図る一方、過度の集中を解消するため、諮機能や中枢管理機能についても、積極的に分散再配置を進めなければならない。
② 「大阪圏」は、東京圏に次ぐ中心的な存在であり、大阪、京都、神戸という、それぞれ歴史的、文化的、経済的特徴をもった三大都市を大きな核とした三極構造を、その特色を生かしながら調和のとれた形で発展させていくことが重要である。
とくに京都は、田園都市国家構想のなかで、文化面における重要な役割を担うべきであろう。
③ 「名古屋圏」は、東京圏、大阪圏と並んで、二十一世紀における日本の国家社会の中心となるであろう。大都市機能の充実や中枢管理機能の高度化などにより、国際的にも他の地域に対しても、文化的・社会的。済経的に開かれた活力あふれる大都市形成を図っていくことが望ましい。

五、田園都市圏を結ぶ交通・情報ネット・ワーク
二十一世紀における各都市や田園都市圏を結ぶ全国的な幹線交通ネット・ワークを完成させるとともに、田園都市圏域内の中核都市の有する機能を圏域内住民が利用しやすいようにし、その機能を高め、圏域を一体的に発展させるためには、全国的な幹線交通ネット・ワークと整合性を保ちつつ、多極重層構造をなす各都市・農山漁村を結合する交通ネット・ワークの役割が極めて重要である。

六、日本の国家システムの特質
(1) 「独自性」と「多様性」を尊重し、「活力ある部分システム」をもつことを特色とする日本の文化構造を反映して、日本の国家システムも、長い間、基本的に「分散型」の特質を強く有しながら、中央との調和を図ってきた。
(2)  なお、国家システムを論ずる場合に、日本では、その伝統的な文化特質のなかで、「分権と集権」、「中央と地方」、「都市と農村」という、二極対立の発想をとらず、本来その調和を大切にしていることに、留意しなければならない。
(3) 日本においてやや過度に中央集権化に偏った制度が採られたのは、隋唐文化を大いに摂取した「律令化の時代」と欧米文化を大いに摂取した明治以降の「近代化の時代」だけであった。
(4) 明治維新以降の中央集権体制は、日本の歴史のなかで、むしろ異例の事態であった。政治権力の過度の集中の結果、生産も、流通も、管理も、教育も、文化も、中央に集中し過ぎる結果となり、大都市の膨張と過密化を招き、一方では地方の過疎化をひき起こすこととなった。

七、地方の時代の到来
(1) 二十一世紀の日本の国家システムの方向は、明治以降の過度集中を是正し、バランスのとれた「分散=集中型」システム、「多極分散型」システムへの移行であろう。それが「地方の時代」の到来である。
(2) 地域社会の充実を図る場合に、基本的に重要なことは、あくまでも地域の「自主性」を尊重することである。「地方への権限委譲」とか「地方への財源配分」ということは「中央から地方に権限や財源を譲り渡す」という中央集権の発想に根ざしていることに注意しなければならない。
中央は、過度に集中している行政権限や補助金を徹底して削減するとともに、地域は、各地域の要請に対応した行政を自らの判断によって選択し、そのために必要な財源を自ら確保することを基本としなければならない。
(3) 新しい「地方の時代」の到来は、日本の人口動態および日本人の意識の面からも裏づけられるものである。

第三章 地域における文化活動の展開

一、文化の時代の到来
(1)  多様な文化活動に対する欲求の増大
田園都市国家構想は、「文化の時代」の国づくりをめざすものである。
今日、物質的生活の豊かさのなかで、国民は、量から質へ、物質的なものから精神的・文化的な価値の高いものへと、個性的で円熟した生活の質を求めはじめ、多様な文化活動に対する欲求が増大しつつある。
(2)  「文化の時代」と「地方の時代」
「文化の時代」は、地域における文化活動が必然的に盛んになる時代であり、「文化の時代」は、この意味で、同時に「地方の時代」とならざるをえない。
(3)  地域社会の新しい動き  文化活動に対する欲求の増大に対応していくためには、行政区画や済経活動圏、通勤通学圏に必ずしもとらわれないで、地域住民の日常居住ずる場を基礎としながら、住民が多様な文化活動を展開する具体的な範囲を「文化活動圏」として捉え、その視点から諸般の施策を進める必要がある。

二、文化格差の解消
(1) 文化格差の存在
(2) 文化格差解消の必要性

三、文化活動圏の形成
(1) 国民の価値観の変化
(2) 文化活動圏の形成
(3) ハードウェアとソフトウェア
今後、文化に関する施策を展開していくに当たっては、従来看過されてきたいわゆる「ソフトウェア」を重視しなければならないことはいうまでもないが、ソフトゥェアを燃えあがらせるための「ハードウェア」も依然として重要である。国民の日常生活における文化活動は、大まかに分類すれば、知的活動を主とする教養あるいは趣味の学習活動、情的活動を主とする芸術の鑑賞と創作活動、肉体的活動を主とする体育・スポーツ活動の三面から捉えられる。ハードウェア、ソフトゥェアもこれに対応して考えなければならない。
(4)  多極重層構造の文化活動圏
社会教育施設、芸術・文化施設、スポーツ・レクリエーション施設など、各種の文化活動のための施設は、今後、二十一世紀に向かって、「文化活動圏」の形成という観点から、その理念に沿って配置されていかなければならない。
「文化活動圏」は、「田園都市圏」のネット・ワークと同様に、多極重層構造をもつこととなろう。
(5)  文化活動圏の中核都市
「文化活動圏」における文化活動の核となる都市や地域を、「文化活動圏の中核都市」(略称して「文化中核都市」)と呼ぶ。
(6)  国体方式による文化中核都市の整備
各「文化活動圏」ないしはその連合体の自発的な誘致に基づき、持ち回りで、例えば「国民文化祭」のようなものを開き、開催当番文化活動圏のために、国は必要な文化施設の建設を助成する。
(7) 地域社会における施設の開放
(8) ソフトウェアの充実
立派な施設ができても、そのなかにおける文化活動が停滞していては、「仏作って魂入れず」である。それを防ぐためには、博物館について展示場の巡回システムを開発したり、劇場や図書館についても、管理・経営・企画等にわたって、ソフトウェア面における行政の手当てをこれまで以上に重視すべきである。
(9) 民間の自発性と活力の尊重
(10) 全国およびブロックのセンター
1 全国およびブロックごとに、「中枢機構」としての役割を果たす「センター」をつくることが望ましい。このセンターの果たすべき機能は、大きく分けて次の三つである。
① 各「文化活動圏」における中核都市の整備を推進する。
センターは、熟練したテクノクラート群をかかえ、各「文化活動圏」の要請に応じて、各計画の策定に当たり参考となるさまざまなサンプルを提供する。
また、全国の文化施設や文化活動の状況を調査し、「文化地図」を作成し、望ましい姿を描くとともに、いろいろな事例や試みなどの成果を他の地域にも広く提供する。
② 地域の文化活動に指導的役割を果たす人材、「文化テクノクラート」を養成する。
③ 文化に関する各種の情報を提供する。
2 田園都市国家において、各種文化施設についても、大都市に集中することなく、大都市圏においても多核型となり、全国にわたって多極重層構造のネット・ワークが形成されることが望ましい。
全国的な大規模の文化施設は、各地域にできるだけ分散して所在することが適当である。
ここでは、文化情報を提供するセンターとしての機能を重視した、一つのタイプの全国的なセンターの建設を提案したい。そのセンターが期待されている機能を果たすためには、そこに全国的規模の「図書館」と「芸術博物館」を設置することが適当であろう。
(11) 科学技術の情報センター
1 日本には、古来伝統ある優れた科学技術の歴史がある。このような日本の技術のルーツを振り返ることにより、技術に対する認識を深め、新たな技術革新の展開への契機を与えるものとして、各田園都市圏ごとに少なくとも一つの「科学技術博物館」を設けることが適当であろう。
このような科学技術博物館の多極重層構造のネット・ワークを全国的に形成することによって、高度の技術に裏づけられた産業群が各地域に展開されていくであろう。
2 科学技術博物館は、文化中核都市に匹敵するものであり、そのネット・ワークの拠点として、一つの全国的文化センターとでもいうべき「情報センター」(「科学技術中枢機構」)が必要であり、そこに全国的規模の大きな科学技術博物館を建設すべきであるが、当面は、「モデル科学技術博物館」を建設することを提言したい。
(12) 文化行政の総合的推進
文化行政は、現在、多くの省庁にバラバラに所管されており、しかもいくつかの省庁が同じ分野の問題を重複して担当しているケースが多くみられる。長期的観点から整合性ある文化行政を強力に推進していくため、総合的な企画・調整を行う体制の整備がぜひとも必要である。
このため、文化面の施策の総合調整と文化振興策の強力な推進に当たる閣僚クラスの担当者を置くことも、一案であろう。

第四章 人間と自然の調和をめざす国づくり

一、人間と自然の調和の回復

二、太陽と水と緑の蘇生
(1) 田園都市国家は、人間と人工と自然の生態学的均衡と調和の実現に新たな発想と創意工夫を必要としている。日常生活において、身近に豊かな太陽と水と緑を蘇生させるための緑の空間計画を飛躍的に拡充し、小鳥たちが憩い、小動物が躍動する生命をもって人間と共存できるような環境を整えなければならない。
(2) 人間に安らぎを与える生活環境の緑を整備するに当たっては、平面的な広さ(緑被率)よりも、人間の目に立体的に映る緑の拡がり(緑視率)を重視し、①半径二五〇m以内の生活圏内に存在する緑、②立体的な緑、③連続して存在する緑、の三つの条件を整えることが必要である。
また、小鳥や小動物が棲息可能な森林団塊の整備が重要である。

三、田園都市林の建設
「田園都市林」を、都市域と田園域の中間帯に設ける。①規模は、一ヵ所一〇〇haを標準にし、②田園都市圏ごとに平均して三~四カ所、③「科学の森」、「芸術の森」、「スポーツの森」など、それぞれ個性あるテーマのもとに、④「コンペティション」(設計競技)方式で国体のように持ち回りによって建設していくのがよいであろう。

四、広域的な自然との触れ合い
人間と自然との調和のためには、自然の保護、育成と並んで、人間精神の内面に、自然を畏敬し、季節の変化や自然美を生き生きと感ずることができるような豊かな感受性を養うとともに、都市の子どもが、野性の自然の厳しさにも耐えることのできるような精神的、肉体的能力を育てる教育がとくに重視されなければならない。
自然との触れ合い増進のためのグリーン・スポーツ施設、自然歩道、森林公園、二十一世紀の森などの整備を進める必要がある。

第五章 多彩な地域産業の新展開

一、新たな地域経済の七つの視点
① 就業機会の創出
② 個性ある地域づくり
③ 文化・社会面の重視 ④ 自然環境との調和
⑤ 自主性・多様性の尊重
⑥ 民間の活力ある展開 ⑦ 中央・地方政府の補完

二、地域産業の発展を支える五つの経済環境の変化
① 経済のサービス化
② 消費要求水準の高度化
③ ファイン・テクノロジーの発達
④ 地域への指向
⑤ 交通網、情報・通信ネット・ワークの発展

三、地域を支える新たな産業群
(1) 新しい「中小・中堅企業」の台頭
日本経済は、重化学工業中心の発達を遂げてきたが、昭和四十年代頃から、新しい分野を開拓した中小・中堅企業が、めざましい発展を遂げてきている。国民経済に占める第三次産業の比重は、国民総生産の六割に達するようになってきた。日本経済は、この面でも欧米先進国型になってきているのである。
(2) 文化産業の新展開
かつてない自由と経済的豊かさのなかで、人々は精神的・文化的豊かさや満足を強く求めるようになり、「文化産業」が発展してきている。
(3) ソフトを商品化するニュー・ソフト産業
多様化し、高度化するさまざまなニーズに対応し、新しい「ノウハウ」を開拓しながら、従来は対価を支払うことのなかったソフトそのものを商品化する、「ニュー・ソフト産業」が登場してきた。事業所相手にソフト・ビジネスを代行する「ビル・メインテナンス業」、「警備保障業」、「リース業」や、「家庭機能の外部化」に対応した「クイック食品」、「ファミリー・レストラン」などの「外食産業」など、その分野は極めて多岐にわたっている。
(4) 新しいクオリティ産業の形成
生活の質や文化的欲求の高度化、多様化に対応し、家具、ルーム・アクセサリー、装身具、食卓用品などの分野で、高品質で優れたデザイン商品を提供する新しい「クオリティ産業」が発達してきた。
(5) 発展する先端技術産業
医療機器、コンピュータ関連電子製品などハイ・テクノロジー、ファイン・テクノロジー(先端技術)といわれる高付加価値産業の分野で、中小・中堅企業が、それぞれの地域と結びつき、国際的にも積極的な広がりをもって活躍してきている。

四、地域産業の開発育成
「地域社会の主体性ある発展」という視点に立って、各地域の自主性に基づき、その地域特性を生かした「地域産業振興のためのビジョン」を作成することを、基本的柱とすべきである。

五、地域技術の新たな波動
(1) 地域における技術開発体制の整備
各地域がそれぞれの技術開発利用戦略を確立し、これに基づいて、試験研究機関の強化、大学などを中心とする創造的人材の育成、中央、地域、海外との人材の交流などを推進し、個性的な技術(コミュニティー・テクノロジー)の開発を行うことが望まれる。
(2) ローカル・エネルギーの開発利用
(3) 地域技術のルネッサンス

六、人的基盤の整備と地域の自主性の尊重
(1) 地域の人材の養成
(2) 諸機能の地方分散

七、先端技術と田園都市圏
(1) 技術田園都市圏
超精密機械や超LSIをはじめ、コンピュータ・ソフトウェアやエンジニアリング・ノウハウなどの先端技術、いわゆるファイン・テクノロジー型の産業はクリーンであり、その立地にはクリーンな環境が不可欠である。田園都市圏が活力にあふれ、自立していくための産業的基盤強化の一つの方向は、このファイン・テクノロジーにほかならない。アメリカの「シリコン・バレー」のような先端技術産業をもつ田園都市圏をここで「技術田園都市圏」と呼びたい。
(2) 先端技術を中核とする都市づくり
テクノポリス構想は、この方向に沿うものであろう。

第六章 人間関係の潤いある社会づくり

一、潤いのある人間関係の創造
(1) あたたかい心の触れ合いを求めて
田園都市国家は、人と人との共存と調和、あたたかい心の触れ合いを可能にするような人間関係の基盤整備に、特別の配慮を加えることを要請するものである。
(2) 人間と地域社会とのかかわりあい
(3) 「まつり」などによるふるさと意識の高揚
(4) シンボル空間の整備
(5) コミュニティ活動の推進
(6) コミュニケーション能力高度化のための教育の推進

二、人間中心のまちづくり
(1) 都市生活の質的向上を求めて
(2) 人間のためのまちづくりの必要性
(3) 小さなコミュニティの重要性
小さな町や村(villages)は、人間性の形成など、人間にとって重要な役割を果たすものである。「都市化」の急速な進行のなかで、都市(cities)は人間にとって有用なむらを放逐してしまった。東京から田園が消滅しつつあるということも指摘されている。従来、田園と都市は対立するもの(villages vs. cities)としてとらえられていたが、いまや家庭や子どものために、都市の中に田園を取り戻す(villages in cities)ことが必要である。
(4) 都市化の進行の歪み
最近、世界各国で、都市化の進行が家庭や子ども、人間に及ぼす影響について、真剣な検討が行われ、いくつもの優れた報告が行われている。
(5) 子どものためのまちづくり
今後の田園都市国家の形成に当たっては、子どもの安全と健全な発育を確保するための配慮が、とりわけ重要である。
(6) 犯罪からの安全の確保
(7) 自然災害からの安全の確保
第二章で述べた、緑豊かなオープン・スペースの開発と住宅の中・高層化により大都市の再開発を進めることが、居住環境の改善のためだけではなく、地震や火災など自然災害からの安全性の確保という見地からも、極めて重要である。
(8) 魅力ある都市環境の創出
都市を構成する建築物、公共空間、緑、オープン・スペース、電柱、広告物などのあらゆる要素を、人間本位に考えた美観の見地から見直し、都市の美しさを創造し保存していくことが必要である。
(9) 「わがまち」意識の涵養
(10) 新たな住宅政策の展開
(11) 人間の生活要素の導入
(12) 個性的で魅力ある地方都市の創造
(13) 生き生きと活力ある農山漁村の設計

第七章世界に開かれた田園都市国家

一、地球社会の時代への対応
(1) 多様な活力ある地域社会の存在を前提とし、各地域の自主性と多様性を尊重して、「地球社会」全体の調和のとれた活力ある発展を期する「国際化の時代」は、「地方の時代」の発想に立つものである。日本は「分散型」の文化特質を有しており、ここに、日本がその特質を生かして、貢献しうる道がある。「国際化の時代」は「地方の時代」である。
(2) 国際化の進展に伴い、「文化摩擦」が生じてきている。このような「文化摩擦」の解消のために、「国際的共同研究」を積極的に推進することを提案したい。

二、日本文化の積極的紹介
速やかな近代化や高度経済成長を可能にしてきた日本文化の特質に対し、海外から大きな関心が寄せられており、日本は、その文化を正しく自己分析し、これを海外に積極的に紹介する責務を有している。

三、地域国家交流の促進
(1) 現在日本の一〇〇以上の都市が外国の都市と「姉妹都市」の関係を結んでいる。このような姉妹都市を多角的な関係に発展させるならば、地域コミュニティ・レベルでの国際交流の促進のためにも有効であろう。
(2) 開発途上国の人づくりに協力するため、各種の研修生の受入れを拡大するとともに、そのための体制の整備の一環として、各地域に「国際研修センター」を設置することを提案したい。

四、国づくりの国際交流
(1) 国際的共同研究の推進
人類が二十一世紀に活力をもって生存することを確保するため、高度工業化社会の病理現象を克服するための国際的共同研究の必要を強く訴えたい。
(2) 都市化の態様による健康問題
(3) 国づくりのノウ・ハウの交換
いまや、田園と都市をいかに融和させるか(villages in cities)ということが、世界各国で研究され、試みられている。このようなノウ・ハウを互いに交換し、国づくりの国際交流を進め、共同研究体制を整えていくことが重要である。

第八章 田園都市国家のための行財政改革

一、新しい行政需要への対応
(1) 二十一世紀に向けての国づくり・社会づくりをめざす「田園都市国家構想」の推進は、「静かなる維新」の大事業であるともいわれている。
(2) 田園都市国家構想を推進するためには、「明治十九年体制」ともいわれる明治十九年以来の各省庁の「タテ割り行政」を打破する必要がある。「田園都市国家構想推進本部」を設け、田園都市国家建設に向かっての関係行政機関の施策および事務の総合調整を行い、施策を強力に推進することを提案する。

二、簡素で効率のよい行政へ
中央、地方を通じ、肥大化した行財政を根本的に見直し、免許・許認可事務などの各種行政権限・行政事務や補助金などの思いきった整理・削減と再編成を、断行すべきときである。

三、幅広い人材の活用
明治以来の近代化・工業化を効率的に推進するため、各省庁は、東京帝国大学法科大学の卒業生を優先的に採用するという伝統のなかで、法律、政治、経済や科学技術など、いわば実用の学を専攻した大学卒業生を重点的に採用してきた。
新しい「文化の時代」に対応し、「田園都市国家」の建設をめざす施策を積極的・総合的に展開していくに当たっては、歴史、哲学、芸術や社会学、心理学、文化人類学など多様な専門分野からも、幅広く人材を登庸していく配慮が必要であろう。このため、このような専門分野を修めた人々が将来の各省庁幹部を志す場合に、例えば「行政職」の試験内容を、そのような人々の受験に適したものに改めるような工夫を行うことを望みたい。

われわれは、この報告書を一つの契機として、二十一世紀への国づくりへ向けて活発な議論が行われ、広く国民的合意が形成されることを期待している。と同時に、政府が、この報告書を十分に検討の上、われわれの提案している方向で、田園都市国家構想を総合的に強力に実施していくことを強く希望する。

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