『ASEANの政治』(東京大学出版会 2024年)
鈴木 早苗(東京大学大学院総合文化研究科教授)
このたびは、栄誉ある大平正芳記念賞を賜り、厚く御礼申し上げます。選考委員の先生方、大平正芳記念財団の関係者の方々、本書執筆にご尽力くださったみなさまに感謝申し上げます。
本書は、地域機構としての東南アジア諸国連合(ASEAN)の特徴を主権制約の観点からとらえ、その背景にある加盟諸国の対立と協調の政治を論じたものです。他の地域機構を紹介しながら、議論を展開しました。そうすることで、ASEANの特徴を浮き彫りにでき、かつ、ASEANの経験から学ぶものがあると考えたからです。1967年設立のASEANは、50年以上存続するだけでなく、協力分野を拡大してきました。経済統合はその典型です。ASEANの役割を肯定的に評価する論考もあれば、力不足を指摘するものもありますが、共通しているのは、ASEANは欧州連合(EU)と異なり、主権を重視し、内政不干渉原則を堅持する地域機構である、という主張です。
しかし、分野別に協力の実態をみていくと、程度の差はあれ、主権の制約を伴う形で協力が進んでいることがわかりました。協力を深化させようとすると、しばしば主権の制約が求められるようになります。EUは超国家機関への権限の委譲、多数決の採用という形で主権制約を実現してきましたが、ASEANはそれとは異なる方法で主権の制約を進めています。このASEANの経験は、主権制約の方法は多様であることを教えています。ASEANは、閣僚や首脳などが交流する、エリート中心の地域機構と評価されてきました。しかし、今やASEANのロゴが東南アジア諸国の街中でみられるようになり、人々にとっても身近な存在となりつつあります。ASEANが東南アジアの人々にとってどのような意味を持つのか。本書執筆を通じて生じたそのような問題意識を大切に、そして、今回の受賞を励みに、引き続き研究に取り組んでいきたいと思います。
略歴
東京大学教養学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、東京大学大学院総合文化研究科准教授を経て、2024年10月より現職。専門は、国際関係論、地域機構論、東南アジアの国際関係とASEAN。主著に『合意形成モデルとしてのASEAN』(東京大学出版会、2014年)、『ASEAN共同体』(編著、日本貿易振興機構アジア経済研究所、2016年)