「大正期における日中の思想連鎖―「連邦制」を手がかりに」
朱 琳(しゅ・りん)(東京大学大学院総合文化研究科学術研究員)
日中の思想的連環を、双方の史料の活用で分析
この度は、はからずも伝統ある「第25回環太平洋学術研究助成費」の受賞対象に選ばれたことを、大変光栄に存じております。この場をお借りいたしまして、審査に当たられた運営・選定委員会の諸先生方をはじめ、財団関係者の皆様に、心より厚く御礼申し上げます。また、これも指導教員による日頃からの温かな見守りとご指導の賜物と、深く感謝する次第です。
今回受賞の対象となった私の研究(「大正期における日中の思想連鎖――「連邦制」を手がかりに」)は、博士論文の延長線上にあるものです。
中国と日本の近代史は、解けがたく絡み合っています。特に関心があるのは、近代国家の建設を緊急課題とする世紀転換期において、日中両国の代表的な知識人がいかに目の前の政治的変動を過去―現在―未来という歴史の流れの中に位置づけ自らの主張や提言を正当化したのか、いかに歴史像の再構築によって国家体制のあるべき姿および変革の方法論を提示し現在から未来への道を打開しようとしたのか、という問題です。
本研究は近代日中の「連邦論」に焦点を絞り、内藤湖南、吉野作造、梁啓超、章炳麟など同時代の日中知識人の歴史認識と体制構想との関連について分析を行ない、大正時代における日中の思想的連環の一側面を明らかにさせることを目的とします。
日本あるいは中国のどちらか一方の資料に頼るのではなく、大正日本と中華民国との思想・人的交流、とりわけ「連邦論」をめぐる日中の思想的連環に注目し、双方の史料を活用しながら分析を行なう点において、本研究の特色があります。
これまで体系的に検討されていたとは言いがたい「連邦論」について考察する本研究は、東洋史の分野で、とりわけ知識人の思想と活動の理解について、新たな知見を提示できるのみならず、今日においても議論の焦点となり続けている中国の国家体制や政治改革の問題と意味を考慮する際に新しい重要な示唆を与えうると考えられます。
今回この栄誉ある賞を頂いたことは、私の今後の研究活動にとって大変大きな励みとなると思います。今回の受賞に満足せず、一層精進を積み、皆様のご期待に背くことのない優れた研究成果を出したいと念じております。どうぞ、今後ともご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
略歴
中国江蘇省出身。南京大学日本語科、北京外国語大学北京日本学研究センター修士課程を経て、2005年に来日。2010年3月、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。同年4月より、東京大学学術研究員。専攻はアジア政治思想史。論文に「二つの中国認識―吉野作造と内藤湖南」(『吉野作造研究』第7号、2010年11月。第2回「吉野作造研究賞」優秀賞受賞)、「中国史像と政治構想―内藤湖南の場合」(一)~(五)(『国家学会雑誌』123巻9・10号~124巻5・6号、2010年10月~2011年6月)など。