インフォメーション

第28回 研究テーマ及び受賞者

「中国中小企業における起業・経営・人材管理-瀋陽市の私有化中小企業に関する事例研究」

北 蕾(ほく・らい)(早稲田大学 トランスナショナルHRM研究所 招聘研究員)

現場に根付く研究スタイルを貫く

  このたびは、大平正芳記念財団の第28回環太平洋学術研究助成賞を賜り、誠に光栄に存じます。この場を借りて、まず、私の長年の研究成果を出版できる機会を与えてくださった大平正芳財団、関係者の方々、選考委員会の先生方に深く感謝申し上げます。
  私の研究は中国の民営中小企業に焦点を当てています。民営中小企業と言っても、中国の改革開放直後に発展してきた郷鎮企業や都市部の個人経営者が営む小型企業のことではなく、国有企業の構造改革によって、経営不振に陥った旧国有中小企業や集体企業が民間人に売却された企業が私の研究対象であります。
  周知のように、国有企業の民営化は多様な形式で行われていました。旧国有中小企業の場合は、企業の所有権が民間人、あるいは企業の元責任者によって買収されたケースが多いです。しかし、こうした企業は民有化された過程において、様々な不祥事や国有資産(経営資源?)の流失が起こったために、民営化した後の企業経営事情に対する調査をほとんど拒否してきました。そのため、現段階の中国中小企業のなかでは民営化中小企業の存在が大きいにもかかわらず、それをめぐる研究は政策や地域経済の領域で一部触れられている以外、あまり進展していないのが実情です。
  私は2003年に携わった企業文化の国際比較というプロジェクトがきっかけで、こうしたいくつかの企業と知り合い、そして彼らの創業と経営スタイルに強い関心を持ち始めました。民営化中小企業は民営化された時点においてすでに、一定の生産設備や技術、および人材まで揃っていました。これは起業当初、資金面であれ、設備面、技術面、および人的資源の面であれ、すべてはゼロからスタートしていた従来の民営企業とは大きな違いであります。民営化した企業はどのような経営を行なって企業の再生を果たしていたのか、所有権の変った後の企業において、何が変化し、何が変化しなかったのか。また、市場経済によって新たな姿が生まれてくるものであろうか、変化しないものは、はたして改革の失敗の証拠として捉えられるべきであろうか、こうした問題は経済体制の移行期における中国民営化中小企業の実態を反映できるものの、既存文献から十分に窺うことができませんでした。
  そこで、筆者は独自の調査を展開し、民営化中小企業経営者の活躍している現場に赴き、彼らの日常で行われたビジネス・ネットワーク活動を観察することから理論の構築を探っていくことに努めました。そのために、民営化中小企業経営者や地元の政府関係者との信頼関係作りに膨大な時間と精力を尽くしました。取材がうまく進まず、途中で論文をやめようと何回も思ったことがあります。しかし、取材を通して分かった民営化中小企業経営者たちが奮闘する姿が挫折しそうになる私を励まし、論文の完成に導いてくれました。中国の経済体制改革が世界史のどの国でも経験のしたことのない変革であり、既存理論、仮想モデルで説明しきれない現象が実に多いのです。そこで、動態的な舞台に密着し、現実に根付いた類型論を創ることが重要になってきます。今日本における中国研究は多岐に渡っていますが、現場に基づく研究アプローチの展開がまたまた足りないと思います。今回、私の研究成果は大平正芳記念財団の第28回環太平洋学術研究助成賞に選ばれたことは、今までの私の研究スタイルを評価していただいたことだと考えています。
 転換期における中国社会の現状を世界に向けて発信していくことが、この時代に生きる私たち中国人研究者の使命だと思います。
  私は、これからも中国社会という大きな現場に根付いた研究スタイルを貫いていきたいと思います。
  この度、研究助成を賜りましたこと、重ねて御礼申し上げます。

略歴
2004年3月 中央大学文学部社会学科卒業
2004年3月 中央大大学大学院文学研究科社会学専攻 
2006年3月 中央大大学大学院文学部研究科社会学専攻
2006年4月 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係専攻入学 
2006年?現在に至る 中央大学社会科学研究所企業研究班 準研究員
2012年3月 早稲田大学大学院 アジア太平洋研科博士課程修了
       博士学位を取得
2012年2月?2012年8月 国際協力機構非常勤研究員
2012年9月?現在に至る 早稲田大学HRM研究所招聘研究員

PAGE TOP