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第24回 受賞作及び受賞者名

『シティズンシップと多文化国家-オーストラリアから読み解く』(日本経済評論社 2007年)

飯笹 佐代子(いいざさ・さよこ)(財団法人 総合研究開発機構リサーチフェロー)

<「西洋」と「アジア」が交差し、せめぎあう場で>

 第24回大平正芳記念賞を拙著に賜り、大変ありがたく存じます。受賞はまったく思いがけず、夢を見ているようです。大平正芳記念賞運営委員会、渡邊昭夫委員長はじめ選定委員会の先生方、ならびに貴財団関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
 拙著のもととなった研究に本格的に着手するきっかけは、10年前の渡豪にさかのぼります。当時、私を客員として暖かく迎えてくださった、シドニーのアジア・オーストラリア研究所を率いるステファン・フィッツジェラルド会長(学者にして初代中国大使)は、オーストラリアを「アジアの国家」として位置づけ、対アジア諸国交流の推進に情熱をもって尽力されました。そうした実践の多くは、まさに大平総理の掲げられた環太平洋連帯構想と響き合うものと思います。同会長のもとで、オーストラリア側のアジア観について学ぶ機会を得たのは、私自身の研究にとっても貴重な経験となりました。
 「オーストラリアはアジアか西洋か」・・・同国においてしばしば論争を喚起してきたこの問いの背景には、歴史的にはヨーロッパ人の入植によって建国されながらも、地理的にはアジア諸国と近接していること、また、かつての白豪主義国家から、近年ではアジア系移民にも開かれた多文化主義国家へと急速に変化してきたことがあります。
こうした、いわば「西洋」と「アジア」が交差し、せめぎあう状況のなかで、オーストラリアという国家がその成員ないしは国民の「境界」をどのように引きなおしてきたのか。その軌跡について、シティズンシップを鍵概念としながら考察したのが本書です。具体的には、国境管理や移民・難民、国籍、先住民族、シティズンシップ教育、多文化主義などをめぐる政策を取り上げました。同国の動向は、グローバル化がいっそう進むなか、日本、そしてアジア諸国にとってたくさんの有益な示唆を含んでいます。今回の受賞を大きな励みとして、さらなる研鑽を積み、精進していく所存です。

略歴
福岡県生まれ。津田塾大学国際関係学科卒業、豪ニュー・サウス・ウェールズ大学大学院政治学科修了、一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。1983年総合研究開発機構に入構後、ケベック州政府文化間関係評議会(モントリオール)、ニュー・サウス・ウェールズ大学アジア・オーストラリア研究所(シドニー)等での客員フェローを経て、2007年11月より現職。専門は、シティズンシップ政策、多文化政策、文化都市政策など。主な著作として、『価値を創る都市へ』(共著、NTT出版、2008年)、『多文化社会の選択』(共著、日本経済評論社、2001年)など。

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