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第32回受賞作及び受賞者名

 『暴力と適応の政治学―インドネシア民主化と地方政治の安定』(京都大学出版会 2015年)

岡本 正明(おかもと・まさあき)(京都大学東南アジア研究所准教授)

 このたびは、大平正芳記念賞という非常に栄えある賞をいただくことができ、心より喜んでおります。第一回受賞者である土屋健治先生は、私の指導教官にあたります。同じ賞を受賞できたことは本当に心より嬉しく思っております。
  受賞させていただいた作品では、インドネシアの一地方を取り上げて、32年間続いた権威主義体制が1998年に崩壊して民主化・分権化が始まった後、どのようにして政治的安定が生まれていったかについてのロジックを明らかにしました。また、そのロジックが他地方でも見られたこともあり、民主化後のインドネシアが全体として政治的安定を実現していることを明らかにしようと努めました。それがどこまで説得的であるのかは、読者の皆様の判断に委ねるほかありません。
  多くの研究者がインドネシアの民主主義の質が悪いという主張を展開しており、私もそれを否定するつもりはありません。ただ、民主化してからすぐに質の高い民主主義が実現するのは容易なことではないですし、質が悪いから民主主義そのものがダメだという短絡的な理解さえ生みかねません。実際に、インドネシアの世論調査ではそうした意見も垣間見られます。本作品では、民主化・分権化がインドネシア政治の抱える課題の何を解決したのかというスタンスをとっています。そして、地方では政治が安定し、脅迫や暴力が政治的にさほど有効性を持たなくなってきたことを明らかにしました。
  私の調査地では暴力集団が政治経済的に強い影響力を持っていたものですから、そのリーダーや構成員ともインタビューを行いました。その時の印象があまりに強烈なものでしたから、臨場感を伝えるべく、本作品でも章の扉や本文に実体験を盛り込ませていただきました。学術書として適当なのかとも思いつつ、私が踊っている、(正確には、踊らされている)写真まで入れてしまいました。それでも、(いや、もしかすると、それゆえに)、大平正芳記念賞という非常に素晴らしい章を受賞できたことは望外の喜びです。本当に有難うございます。

略歴
1994年 京都大学法学部(比較政治学)卒業
1996年 京都大学大学院人間・環境学研究科修士号取得
1996年~1997年 インドネシア国立パジャジャラン大学留学
1999年~2001年 京都大学東南アジア研究センター非常勤研究員
2001年~2003年 国際協力事業団(JICA)専門家
2003年~現在 京都大学東南アジア研究センター助教授→准教授
2011年 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科論文博士号取得
2011年~2012年 ハーバード大学イェンチン研究所シニア研究員
2012年 コーネル大学東南アジアプログラム・客員研究員
2015年 シンガポール・東南アジア研究所・客員研究員

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