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第36回受賞作及び受賞者名

『グローバル・バリューチェーン 新・南北問題へのまなざし』
(日本経済新聞出版社 2019年)
猪俣 哲史
(ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員)
 このたびは大変栄誉ある大平正芳記念賞を頂戴いたしまして誠に光栄に存じます。この本を出すまで賞というものに余り縁のない人生を送って参りましたので、やはり、こういった形で評価を得られるのは本当に嬉しいことだと実感しております。この晴れがましい機会を設けてくださった財団関係者の皆さま、そして私の本をこの場に加えてくださった運営・選定委員の諸先生に厚くお礼申し上げます。
 さて、経済のグローバル化という現象については、分野を問わず多くの研究者が早期から着眼し、それぞれ独自の問題意識と分析手法をもって解明に努めてきました。これに対
し、本書のタイトルである「グローバル・バリューチェーン(GVC)」、あまり聞きなれない言葉ではないかと思います。実際、この言葉が世に出たのはほんの十数年前のことであり、特に日本では未だ市民権を得ておりません。
 しかし今日、我々を取り巻く環境は急速に変化しており、この新たな概念が世界的な関心を呼び寄せています。米中対立、地球温暖化、貧困問題、そして現在進行形で世界を脅かしているパンデミックなど、多くの現代的課題をGVC の視点で捉えることができるからです。
GVC 研究は、経済学、政治学、社会学、経営学、統計学など多様な学問の統合知です。こういった学際性こそGVC 研究の特徴とも言えますが、一方で、その分野横断的な内容から研究の輪郭が掴みにくいというのも事実です。そこで、今でも様々な方向へ展開を続ける知のベクトルを、何とか整理して一枚の絵の中に収めたい……本書はまさに、筆者の斯様な熱情と無謀な動機の産物と言えましょう。
 「バリューチェーン」とは、字義通り、価値を取り結ぶ鎖という意味です。私の研究も然り。多くの研究者の価値ある知見を一つ一つ紡いだのがこの本です。そして何よりも、編集を手掛けてくださった日経BP社平井修一氏のご尽力なくしては、この本が形になることはありませんでした。格別の感謝を捧げたいと思います。

略歴
1990年6月 ロンドン大学政治学部学士課程修了。
1991年7月 オックスフォード大学大学院経済学部修士課程修了。
2014年3月 一橋大学博士課程(経済学) 修了。
職歴
1991年 アジア経済研究所入所。
2000年?02年 ロンドン大学客員研究員。
2017年~ 現職
その他の学術的活動
国際産業連関学会 会長(2019年1月~)
学会誌 Economic Systems Research 編集委員
(2012年10月~)

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