『日韓関係史』
木宮 正史
(岩波書店 2021年)
(東京大学大学院総合文化研究科教授)
このたびは、大平正芳賞特別賞という名誉ある賞を受賞させていただき、大変ありがとうございます。財団関係者の方々、その他本書の出版に関わった方々に深く御礼を申し上げます。受賞作の中には「大平正芳」という名前が出てきます。1962年、大平外相と金鍾泌韓国中央情報部部長との間で行われた交渉で、俗に「金・大平メモ」と呼ばれるものです。この日韓国交正常化交渉をめぐっては、韓国では激烈な反対がありましたし、その後も、植民地支配の清算が不十分であったという批判が提起されました。昨今、日韓間の緊張をもたらしている歴史問題も、こうした批判の延長線上に位置づけられます。
他方で、当時の日韓の力関係や日本社会の意識を与件とする限り、こうした政治決着以外の解決策はなかったとも考えます。また、当時、北朝鮮に比べ劣勢だった韓国にとって、日韓経済協力によって経済発展を図ることが何よりも優先課題でした。その後、韓国は経済発展を達成、さらに民主化も達成することで、今日、先進民主主義国家の一員となっています。日韓協力が日韓双方に大きな利益をもたらしたのみならず、グローバルな利益をもたらしたことを誇らしく思います。
その結果、今日、日韓関係は以前の非対称から対称な関係へと大きく変化しました。そして、それが日韓間の緊張を生み出すことにもなりました。私は、そうした構造的な変化が必然的に関係を悪化させたとは思いません。双方における賢明な政治指導が確保されるならば、関係をさらにアップグレードさせることができると思います。しかし、現実には、そうはなっていません。
幸い、韓国の政権交代に伴って雰囲気はよくなっています。また、北朝鮮の核ミサイル危機、米中対立の深刻化など、日韓が競争しながら協力しない限り有効に対応できない課題は山積しています。本書がそうした日韓関係の未来を切り開くための一助となれば幸いです。
今回の受賞は、日韓関係の現状を案じる人たちにとって大きな力になったのではないかと考えます。本当にありがとうございます。
略歴
1983年に東京大学法学部を卒業後、同大学院法学政治学研究科に進学、修士課程を修了し博士課程に進学した。1986年、韓国高麗大学大学院政治外交学科博士課程に入学し、1992年に韓国政治・比較政治専攻の政治学博士号を取得した。1993年に東京大学大学院博士課程を単位取得退学後、法政大学法学部助教授に就任した。1996年から東京大学大学院総合文化研究科助教授に就任し、2000年、同准教授、2010年、同教授に昇任し、現在に至る。その間、2002年から1年間、ハーバード大学訪問研究員を歴任した。