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第23回 受賞作及び受賞者名

特別賞

『近代・中国の都市と建築-広州、黄浦、上海、南京、武漢、重慶、台北』(相模書房 2005年)

田中 重光(たなか・しげみつ)(株式会社東急設計コンサルタント)

<都市と建築から見えるもの>

 この度は、大平正芳記念賞特別賞を受賞いたしまして、誠に光栄に思います。本拙著は工学系の分野に入るのですが、これが文系の分野で認められたところに、強い誇りと名誉を感じております。この賞を拝受したのは、環太平洋連帯構想を提唱された大平正芳首相の、単なる政治、経済のみにとらわれことなく、文化面での協力を中心とした“開かれたゆるやかな連帯”という広い視野に立った基本理念に基づくものと理解しております。今日、ASEAN、およびBRICs諸国の協力連帯はまさに大平首相の功績の賜物と考えます。
 振り返ると、中国近代期の都市計画の研究に取り組む切っ掛けとなったのは、十五年ほど前の恩師・高綱博文先生の薦めで卒業論文「大上海計画(1927-1936年)の一考察」を書き上げたことにあります。ところが、この中国近代期の都市計画を管見しても未だ発掘途上にあり、まして当時の欧米近代都市計画潮流の影響とその導入という視点も明らかにされていなかったのです。19世紀末期から20世紀初頭にかけてアメリカで採用された都市環境の再生施策である緑地系統の都市計画思想、すなわち都市の内外の公園や自然緑地を公園道路(パークウェイ)で連絡する緑地システム(パーク・システム)計画が、中国近代期の都市計画に導入されていたのは新発見でした。この都市計画手法は、今日、東京を緑のパーティションで仕切ろうとする緑の連鎖計画へと反映され、都市や地球規模の環境配慮の一策に通じるものであります。また中国の近代建築においては、時系列的に作品を挙げ、欧米建築に対するヤング・チャイナ・アーキテクチャの台頭に着目、そこには確実に民族独自の建築ナショナリズム的な建築様式を生み出していたのです。
 激動した中国近代期の都市と建築から見えるものは、将来を見据えた権力者による都市再生の推進と建築文化の創造であったのです。これを糧にさらに研鑚したいと思います。

略歴
1951年福岡県柳川市生まれ。1990年日本大学文理学部史学科卒業。1994年日本大学大学院理工学研究科博士前期課程交通土木工学専攻科修了。1997年日本大学理工学部理工学研究所交通土木専攻科研究生終了。1997年博士(工学)、一級建築士。日本上海史研究会会員、共著『上海職業さまざま』勉誠出版2002年。中国近代都市計画・建築に関する論文、多数。現在、上海華東理工大学・公共社会管理学院と研究交流中。

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