“Welfare and Capitalism in Postwar Japan”(Cambridge University Press 2008年)
Margarita Estévez-Abe(マルガリータ・エステベス・アベ)(シラキューズ大学マックスウェル大学院政治学准教授)
<他国にも適用できる汎用性のある新たな理論を>
大平正芳記念賞を賜り、誠に光栄に存じております。財団および選定委員会の諸先生に心より御礼申し上げます。 現在はアメリカを基盤にしておりますが、もともと日本で育ち、古くからの日本の友人そして恩師らに研究活動を支援していただきました。今回の受賞を自分のことのように喜んでくれている日本の恩師、同僚、友人の存在には大変感謝しております。これからも一層研究活動に励み、恩返しとさせていただく所存です。Welfare and Capitalism in Postwar Japanは、1940年代から2007年までの日本の政治経済を分析しています。選挙制度などの政治制度の配置によって、一国の分配政策の大枠が決定されるというのが本書の主張です。本書ではその理論的枠組みを適用することで、1990年代以降の制度改革によって日本の政治がどう変わり、今後どうなっていくかについても予測をたてています。英文ではありますが、日本政治の今後に興味のある方には是非読んでいただければ幸いです。日本という国は比較政治経済研究者にとって非常に重要な事例であるにもかかわらず、日本語という言語のハードルゆえに、比較研究から外されてきました。本書は逆に日本の事例を使うことで、従来の比較政治経済学研究の限界を浮き彫りにし、他の国にも適用できる汎用性のある新たな理論の提示を試みています。
略歴
政治学博士(ハーバード大学)。慶応義塾大学総合政策学部助手、ミネソタ州立大学政治学部助教授、ハーバード大学政治学部准教授を経て、現職。ドイツのコンスタンツ大学客員教授、ドイツ・ハンザ先端研究所、米ラッドクリフ先端研究所などで客員を務める。専門は、比較政治経済学。特に、女性の就業行動の先進国比較と日本の政治経済を中心。現在、Gender、Inequality and Capitalism 『ジェンダー、不平等と資本主義』という本を執筆中。近著として、受賞作とは別途に、“Japan’s New Extrovert Leaders: How Institutions Change Incentives and Capabilities,”Harvard Weatherhead Center of International Affairs Working Paper #3557 (2008), 共著, “How Policies Affect Women’s Economic Position within the Family: Labor Market Institutions and Wives’ Contribution to Household Income,” Luxembourg Income Study Working Paper (2008)、共著、『オバマのアメリカ経済入門』、共著(毎日新聞社、2009)など。 『週刊エコノミスト』(毎日新聞社)に定期的にアメリカ政治経済について寄稿している。
『現代中国の中央・地方関係―広東省における地方分権と省指導者』(慶應義塾大学出版 2007年)
磯部 靖(いそべ・やすし)(慶應義塾大学法学部准教授)
<常に世界水準を意識した中国研究を志して>
この度、期せずして第25回「大平正芳記念賞」を賜り、身に余る光栄に存じます。とりわけ、日本と中国の関係の発展に多大なる功績を残された故大平正芳総理の名を冠した賞を授与していただけたことは、中国の研究に従事する者として、望外の慶びとするところであります。この度の受賞に際しご高配を賜った運営・選定委員の先生方に衷心より御礼を申し上げるとともに、四半世紀近くの長きにわたり、大変意義のある活動を続けてこられた大平正芳記念財団関係者の皆様に心より敬意を表する次第でございます。
拙著が上梓されるまでには大変多くの方々にお世話になりました。とりわけ、わたくしの研究者としての歩みを一貫して支えてきてくださった国分良成先生(慶應義塾大学法学部教授・法学部長)に対する感謝の気持ちは、月並みな言葉では言い尽くすことができません。この度の受賞は、こうした皆様のご支援の賜物でございます。今までお世話になって参りました皆様に、このような最高の形で恩返しができたことを大変嬉しく思います。
さて、拙著では、改革・開放期以降の広東省における地方分権をめぐる中央・地方関係を事例として、従来の研究の問題を明らかにするとともに、現代中国の中央・地方関係を分析するための新たな枠組の構築を試みました。すなわち、改革・開放期以降、地方分権が行われ「地方が強くなった」との前提のもとに行われてきた従来の研究の背景にある「制度論」、「中央・地方二元論」、「地方悪玉論」の問題を明らかにする一方で、新たな分析枠組として、「動員型地方分権」、「二元指導体制の温存」、「地方内の利益の多元性」、「融合―委任型モデル」を提起いたしました。
しかしながら、拙著を通じて明らかにできたことはほんのわずかに過ぎません。今後の研究課題として、考察対象とする時期、地域、レベルを広げていくとともに、分析枠組の更なる精緻化にも取り組んでいかなければなりません。また、わたくしが中国研究を始めた当時と比べ、中国自体が大きく変化してきているばかりでなく、中国研究を取り巻く環境も著しく変貌を遂げつつあります。とりわけ、グローバル化の波は中国研究にも着実に押し寄せていると痛感させられます。こうしたことから、今後とも研鑽を続け、常に世界水準を意識した研究を志していかなければならないと強く認識いたしております。
これから取り組まなければならない研究課題は果てしなく多いですが、この度、「大平正芳記念賞」を受賞できたことは、今後の研究の大きな励みとなりました。「大平正芳記念賞」受賞者の名に恥じぬよう、今まで以上に研究に精進して参る所存でございます。
略歴
1998年、慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻後期博士課程単位取得退学。法学博士。
日本国際問題研究所アジア太平洋研究センター研究員、長崎外国語大学外国語学部准教授などを経て、現在、慶應義塾大学法学部准教授
専門は現代中国政治。
主な著作として、『中国の統治能力-政治・経済・外交の相互連関分析』(共著、慶應義塾大学出版会、2006年)、『中国政治と東アジア』(共著、慶應義塾大学出版会、2004年)、『中国文化大革命再論』(共著、慶應義塾大学出版会、2003年)、『グローバル化時代の中国』(共著、日本国際問題研究所、2002年)、『深層の中国社会-農村と地方の構造的変動』(共著、勁草書房、2000年)など。