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第25回受賞作及び受賞者名

特別賞

『中国 静かなる革命―官製資本主義の終焉と民主化へのグランドビジョン』(日本経済新聞出版社 2008年)

呉 軍華 (う・じゅんふぁ)(日本総合研究所理事 日綜投資諮詢有限公司会長・首席研究員)

<我が家の恩人―大平正芳先生への恩返し>

このたび、拙著を大平正芳記念賞特別賞の受賞作に選定していただきまして、誠に光栄に存じます。財団と運営・選定委員会の諸先生に心より御礼を申し上げます。
 改めて申し上げるまでもありませんが、研究者としてアカデミック的に権威あるこの賞をいただけるのは、この上もない名誉なことです。しかし、それ以上に、大平正芳先生の偉業を記念する趣旨で設立されたこの財団の賞をいただくことは、私にとって心情的にも特に感慨深いものがあります。
 今でも、大平正芳外務大臣(当時)と姫鵬飛中国外交部長(当時)が、日中国交正常化を実現する「日中共同声明」にサインした写真を掲載した新聞を読んだ時のことを鮮明に覚えています。当時、小学生であった私は、このサインが日本と中国の国家レベルで何を意味するかを理解することはできませんでした。しかし、青春時代に日本で過ごし、文革の中国で日本のスパイとして投獄された父を持つ我が家にとって、運命が大きく変わる時が来たと直感的に分かりました。感無量の瞬間でした。実際、その後、父が名誉回復を果たし、私も引き続き「小日本」と呼ばれたりしていましたが、我が家を取り巻く政治・経済的環境は著しく改善しました。
 私の両親は各々の研究分野で成果を上げていたにもかかわらず、文革の荒波に激しく曝されていました。このような両親を目の当たりにして、当時の私は「読書無用論(勉強は役立たず)」を信じ込んで、勉強に全く興味を持っておらず、両親を大いに悩ませた子供でした。しかし、日中国交回復が我が家に与えたインパクトを通じて、国家間の交渉という自分にとって遠い世界で起きたことは、実は個人の運命を大きく左右するものだという実感を持つことができました。その当時、私は各々の個人の不幸に繋がる国家間の関係悪化をもたらす主要因は、相互理解の不足と誤解だと思っていました。今になって考えますと、如何にも子供じみた幼稚な考えですが、これらのことは私が日本に興味を持つ契機になりました。そして、私と家族が経験していた苦しみを二度と経験しなくて済むように、いつかは日中両国の相互理解に尽力したいという人生の目標ができました。
その後、私は中国の大学を卒業した後、日本に留学し、そのまま日本にとどまって、シンクタンクに勤め、一研究員として、中国研究に取り組んで参りました。
 今回受賞した本は、中国の政治・経済の近未来について、私が日頃考えていたことをまとめたものです。この本が少しでも中国に対する日本の理解を深めるのに役に立つことができれば、私にとってこの上もない幸せであり、我が家の恩人である大平正芳先生にせめてもの恩返しをさせて頂いたと言えます。
 本当に有難うございました。

略歴
1983年7月 中国復旦大学卒
1985年4月~90年3月 東京大学大学院修士・博士課程修了
1990年4月 ㈱日本総合研究所入社(日本総研)
1995年8月~05年1月 日本総研香港駐在首席研究員
2000年9月~02年8月 ハーバード大学客員研究員
2001年9月~03年9月 米AEI (American Enterprise Institute for Public Policy Research) リサーチフェロー
2002年8月~03年9月:ジョージワシントン大学客員研究員
2006年4月~07年6月 日綜(上海)投資諮詢有限公司社長、首席研究員
2006年6月~現在 日本総研理事
2007年7月~現在 日綜(上海)投資諮詢有限公司会長、首席研究員

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