『近代日本外交とアジア太平洋秩序』(昭和堂 2009年)
酒井 一臣(さかい・かずおみ)(大阪大学大学院文学研究科招聘研究員)
<「文明国標準」ということばが私の研究の主要概念>
このたび第26回大平正芳記念賞をいただくことになり、誠に光栄に存じます。国際関係論や外交史研究の本流からは遠いテーマであるという自覚があっただけに、こうした形でご評価いただけたことを大変うれしく存じます。
西洋文明に順応することを国是としていた日本が、最終的には欧米諸国との戦争にいたって破滅したのはなぜなのか。この疑問を、国際社会において外交政策・経済政策などさまざまな点で迷走している日本の現状と重ね合わせて研究を続けてきました。「文明国標準」ということばが私の研究の主要概念で、明治から大正時代にかけて、日本の国際協調主義外交を支えた理念について分析を進めています。ただし、当初、私はグローバリズムに肯定的な立場でしたが、しだいに「文明国標準」、すなわち20世紀初めのグローバル化の弊害に関心を持つようになりました。グローバリズムの帝国主義的側面は従来から批判されていますが、私の関心は、グローバル化のなかで肯定的な扱いを受けがちな国際化や国際理解の進展などに対応できないことの苦しみに無関心であった国際主義者たちにあります。
国際協調主義に背を向けることがある世論は愚かである、感情的な排外主義は無知の現れであると、戦前のエリートは大衆を切り捨てました。一方で、こうしたエリートは、戦争への道に必死で抵抗した国際協調主義者でもありました。国際主義は善で反国際主義は悪であるというような単純な二分法では割り切れないところに、私の疑問を解く鍵があるのだと考えています。
本書は、こうした私の疑問を提示しただけであり、まだ道半ばです。大平正芳記念賞の受賞をはげみに、これからも研鑽を積んで参りたいと存じます。
略歴
1973年生まれ。1996年大阪大学文学部卒業。1999年慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻前期博士課程修了、2002年大阪大学大学院文学研究科文化形態論専攻博士後期課程修了、2004年日本学術振興会特別研究員、2007年より大阪大学大学院文学研究科招聘研究員。