インフォメーション

第26回受賞作及び受賞者名

『Currency and Contest in East Asia:The Great Power Politics of Financial Regionalism』(Cornell University Press 2009年)

William W. Grimes(ウィリアム・W・グライムズ)(ボストン大学国際関係学部准教授(兼)アジア研究所所長)

<ASEAN+3の金融地域主義の発展と将来における意味>

 この度は弊著の「東アジアにおける通貨と競争:金融地域主義の大国政治」に対し、大平正芳記念賞を賜り、誠に光栄に存じます。故大平正芳総理大臣は、その生涯を通じて、国民に奉仕し続けたのみならず、環太平洋地域の平和と安定にも多大な貢献をした真の政治家でありました。その名を頂いた本賞を賜ることは、私にとっても非常に名誉なことと存じます。
   環太平洋における共同体の発展にとって今は大変重要な時であります。多年にわたる地域の経済統合と、地域制度をどのように構築するかについての議論の結果として、これらの制度が、重要な政治的、機能的な影響を地域に与えているという認識に私たちは至りました。従って、機能やメンバーが重複する様々な制度が現存し、これからも更に発展し続けると考えられる地域の構造を分析する際、主要な地域制度の機能的な影響だけではなく、その政治的な意味合いを考慮することは必須であります。
   弊著ではASEAN+3における金融地域主義の政治的な要因及びその影響に焦点を当てています。貿易分野での協力が、様々な二国間或いはサブリージョナルな協定に留まる一方、ASEAN+3における金融地域主義は、真の意味で地域レベルでの経済協力の好例であります。特にチェンマイ・イニシアティブのような金融地域主義の様々な側面は、10年前には想像もできなかったほど進展しております。さらに、金融地域主義を構成する様々なイニシアティブは、通貨問題や国際金融における規制といった ASEAN+3の各国が直面する非常に重要な経済問題に対する、野心的且つ一体的な対応を含んでおります。従って、ASEAN+3の各国がその協力関係を構築する方法は、将来における金融秩序の安定に多大な影響を与えることになるでしょう。また、これらの地域制度は、日本と中国といったASEAN+3の主要参加国のみならず、域外国である米国を含めた主要国間の、国益と国力の違いを反映するものであります。
   弊著においては、ASEAN+3の金融地域主義の発展と将来における意味を、権力政治の観点から分析致しました。先行研究においては、機能主義的な観点や、地域アイデンティティーの可能性及びその発展に焦点が当てられ、権力政治の観点はあまり分析の対象とされてきませんでした。従って、弊著では、日米中三国間の競争として、金融地域主義を捉えることにより、地域協力におけるこの重要な側面に光を当てようと試みました。パワーをめぐる競争は、効果的な協力を前もって除外するものではありません。しかし、このパワーをめぐる競争を真剣に捉えることによって初めて、政策決定者は持続的で、効果的な地域協力を発展させていくことができるものと信じております。

略歴
1965年生まれ。国際関係学部准教授(兼)アジア研究所所長。
 (Associate Professor of International Relations & Boston University and the Founding Director of the Boston University Center for the Study of Asia)Currency and Contest in East Asia: The Great Power Politics of Financial Regionalism(Cornell University Press, 2009)
 政治学博士(プリンストン大学)。ボストン大学アジア研究センターの創設時(2008年)以来、その所長も務めている。専門は、日本と東アジアの政治経済、日本政治及び国際政治経済で、特に、金融グローバリゼーションの日本への影響、日本の金融政策決定過程、バブル期・ポストバブル期の日本の経済政策、東アジア金融地域主義、日米関係、日本と東アジアとの関係に関する論文を多数発表。主著としては、『Unmaking the Japanese Miracle: Macroeconomic Politics, 1985-2000』(Cornell University Press, 2001)「日本語版:日本経済失敗の構造(東洋経済新報社、2002)」及び、Ulrike Schaedeとの編著である『Japan’s Managed Globalization: Adapting to the 21st Century』(M.E. Sharpe, 2002)1992年以来数次にわたり、財務省の財務総合研究所と日本銀行の金融研究所にて客員研究員も務めている。

1 2

3

4 5 6
PAGE TOP