『中国農村社会と革命―井岡山の村落の歴史的変遷』(慶應義塾大学出版会 2009年)
鄭 浩瀾(テイ・コウラン)(フェリス女学院大学国際交流学部准教授)
<「三農」問題への社会的関心の高まり>
このたびは名誉ある大平正芳記念賞を受賞し、まことに光栄に存じます。まず、財団の皆様や選定委員の諸先生方に心よりお礼申しあげます。
日本に来てから今年で10年目になります。この10年間は中国にとって経済が急速に成長している時期であり、同時に様々な社会問題が顕在化した時期でもあります。農村では、毛沢東時代と比べて農民の生活水準が大きく改善した一方、農地収用の問題や貧富格差の問題なども現れており、「三農」問題への社会的関心が高まっています。これらの問題の発生原因を単純に市場メカニズムの浸透に求めることもできませんが、中国革命の意義を否定して現在の農村が1949年以前に戻ったとみなすこともできません。激しい革命運動を経て、市場経済の波にのみこまれている農村は一体何が変わり、何が変わらないのでしょうか。また、かつての革命は何を残していますか。本書はこれらの問題を冷静に分析した試みなのです。
本書の特徴をまとめていえば、以下の3点になります。第一に「公・私」というキーワードから村落の特質を分析し、村落の共同性のありかたが、「私」を基盤とした「共有関係」であると指摘することです。第二に、国家の動きではなく、社会のほうに研究視点を置き、これまで社会の特質がどのように社会主義革命に影響を及ぼしたのかを検討したことです。第三に過去ばかりではなく、歴史と現在とのつながりにも注目し、社会の特質がこれからも政治のあり方を規定する要因の一つになりうることを指摘したことです。
このような研究ができたのは、これまで多くの方々からご支援をいただいたからです。とりわけ、指導教員の故小島朋之先生から蒙った学恩ははかりしれません。小島先生をはじめ、これまで私の研究を温かくご支援してくださったすべての方に深く感謝申し上げます。このたびの受賞を機に、また新しい課題に挑戦し、研究に一層励んでいきたいと思います。
略歴
1977年生まれ
1994年~1998年、中国復旦大学国際政治学部
1998年~2001年、中国復旦大学国際関係と公共事務学院修士課程
2002年~2006年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科、博士課程
2004年~2007年、慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師
2006年~2007年、慶應義塾大学商学部非常勤講師
2007年~2009年 慶應義塾大学総合政策学部訪問講師
現在、フェリス女学院大学国際交流学部准教授