インフォメーション

第33回受賞作及び受賞者名

『現代中国の産業集積―「世界の工場」とボトムアップ型経済発展(名古屋大学出版会 2015年 )

伊藤 亜聖(いとう・あせい)(東京大学社会科学研究所准教授)

 ただいまご紹介に預かりました、伊藤亜聖と申します。このたび、大平正芳記念賞を受賞できましたこと、身に余る光栄です。心より御礼を申し上げます。大平正芳の名前を冠するこの賞は、アジア太平洋地域を研究するものにとっての目標であります。
  また、このたび櫻井良樹先生の『華北駐屯日本軍』、乗松優先生の『ボクシングと大東亜』、渡辺将人先生の『現代アメリカ選挙の変貌』、そして沈志華先生の『最後の「天朝」』、これらのご著作に、私の著書が並んでいることは何にも勝る栄誉です。
  ●大平、そして鄧小平
  今日、6月12日は大平正芳の37回目の命日にあたります。中国そしてアジアを研究するものとして、大平が戦前の興亜院時代から中国大陸に駐在し、また1972年には日中国交正常化交渉の過程で、果たした役割がまず頭に浮かびます。大学では現代中国論を講じることもありますが、その際には必ず当時の大平外相と姫鵬飛外相との交渉を紹介しています。
  また中国経済を研究するものとして想起するのは、中国の改革開放政策の牽引者・鄧小平と、大平正芳との関わりです。1978年10月24日に鄧小平が来日した際の面会から、大平が死去する1980年6月12日まで、わずか、1年半の間に、大平と鄧小平は合計4回の会談があったそうです。その中で、大平は環太平洋構想を、鄧小平は中国の現代化、より具体的には「小康社会」、すなわち「少しゆとりのある社会」を目指すことを語りました。およそ40年前の出来事になりますが、環太平洋構想はまさに経済統合や貿易協定として現在まで活発な議論がなされ、中国の現代化は世界第二位の経済大国として実現 しつつあります。
●2018年に向けて
 来年、2018年はいくつかの節目でもあります。一つは、1978年に始動した、鄧小平がけん引した中国の改革開放政策の40周年にあたります。鄧小平が目指した「少しゆとりのある社会」はほぼ実現しつつあるように見えます。私は今年度、中国広東省の深せん市に滞在して研究をしております。まさに改革開放政策の実験地として、経済特区に最初に指定された地です。かつては下請け工場というイメージでしたが、現在では通信機器のHUAWEI、メッセージアプリのTencent、ドローンのDJIをはじめとする名だたるハイテク企業の本社が集中し、また日常のほぼすべての買い物は、電子決済化しています。かの地から、世界に打って出る若き民営企業が生まれています。こうした激変の時こそ、大平がそうであったように、大きな構想や地図、パースペクティブが求められている、このよう指摘することはできるでしょう。
●未来に向けて
 大平正芳記念賞の受賞に際し、大平の人柄と努力、直観と構想、夢とその挫折に触れる機会を得たことに、感謝したいと思います。この受賞を励みに、自分もまた、想像力を豊かにして、議論の幅を広げ、また努力して、新しいテーマに取り組みたいと考えております。
  最後になりましたが、このような学術書籍の出版に際しては、ご指導を賜った多くの先生方、そして互いに未来の見えぬ中で切磋琢磨してきた友人たちに深く感謝したいと思います。そしてさらに各出版社の担当者の皆様には、締め切りぎりぎりまでの編集作業をしていただいたことにも感謝申し上げます。今後もかわらぬご支援をお願いして、謝辞に代えさせていただきます。本日はありがとうございました。 

略歴
2012年3月、慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、2014年7月、同経 済学博士。2012年4月より人間文化研究機構(NIHU)地域研究員・東京大学社会科学研究所特任助教。2015年4月より同研究所講師、2017年4月より同准教授。2006年中国人民大学(北京)に、2011年中山大学(広州)に留学。共編著に『China’s Outward Foreign Investment Data』(東京大学社会科学研究所・現代中国研究拠点研究シリーズ2014年3月)、『東大塾社会人のための現代中国講義』(東京大学出版会2014年)。

1

2 3 4 5
PAGE TOP